連載:逆説的AI論
Vol.4
藤井薫(リクナビNEXT編集長)×境目研究家・安田佳生
20Feb

境目研究家・安田氏とリクナビNEXT編集長の藤井薫氏がAI化をテーマに採用の未来を探る特別対談第4弾。現状の採用の問題点に肉薄した先には、AIを活用し、マッチング精度を限りなく高める理想の採用マッチングの輪郭が見えてきた。
ヒトの能力を最大化することで近づく理想のマッチング
安田 理想のマッチングは「ヒトの能力を軸に、その幅広い可能性を考えたもの」ということでしたよね。
藤井 はい。
安田 そこに至るにはまだギャップもあるでしょうが、どうやって埋めていくイメージでしょうか。
藤井 AIを活用した採用サービスを提供し始めています。
安田 AIですか?
藤井 はい。「リクナビHRTech転職スカウト」というサービスです。
安田 どういうサービスなんですか?
藤井 たとえば、これまでのエンジニア採用では「Javaの開発経験5年以上の人」という採用枠があったら、「あくまでJavaを5年経験していなければ、書類不通過」となっていた。採用要件の完全一致、言葉の厳密性が、出会いの可能性を壊していたんです。
採用にAIが絡むことで何が変わるのか
安田 新しいサービスを使うと、そこが変わるんですか?
藤井 はい。その人の経歴とGitHubの作品をみせると「Javaは5年経験してないけど、Pythonの開発経験が2年ありポテンシャルは高そうだ」ということが現場の方によく分かる。
安田 今までだったら会わなかった人にも「会ってみようか」という話になると。
藤井 その通りです。人事でなくAIが「こういう応募者の方がいる」と現場にレコメンドする。すると現場から「この人なら会いたい」という声が上がる。
安田 採用結果も変わりますか?
藤井 今までなら「曲がったニンジン」は規格外ではじかれていたのが、「むしろ曲がったところがいい」となってくる。
安田 同じ会社でも、現場によっては「曲がったニンジンの方がいい」というケースもあると。
藤井 テクノロジーの導入によって、企業のストライクゾーンが大きく広がっていくんです。
安田 なるほど。従来の基準では評価されなかった「得意やスキル」が生かされるかもしれませんね。
AIが拾い上げる個人の可能性
藤井 テクノロジーって便利だけど冷たいイメージがありますよね。
安田 ありますね。早いけど杓子定規に判断されている感じ。
藤井 でも実際は、膨大なデータを解析することで、これまで取りこぼしていた個人の可能性を拾いあげてくるんです。それが採用サービスにAIを導入したこの2年で驚かされたことです。
安田 AIが個々の可能性を拡げてくれるわけですね。
藤井 はい。こうなってくるともはや、仕事にヒトを無理やりあてはめていくというやり方は限界なのかもしれません。
安田 少し話はズレますが、お医者さんも「すべての医療の専門家」にはなれないので、眼科とか内科とか皮膚科とかに分かれてます。
藤井 そうですね。
安田 でも患者側からすると「眼科に行ったけど、実は内臓に問題がある」とか、全体として診断してもらえたほうがいいですよね。採用もそれに近い状態になっていくんでしょうか?
藤井 エンジニアって関係資本が重視され始めてるんですよ。何をやったかの資格資本でなく、誰とやってきたかの関係資本。
安田 面白い視点ですね。
藤井 さらに言えば、変身資産が大事だということ。
安田 変身資産?
藤井 Java5年の経験があるかどうかではなく、その人が将来的にどう変われるか。
安田 なるほど。変身できるかどうかの「ポテンシャル」を見るわけですね?
藤井 過去の経験を表層的・機械的に枠にはめ込むのではなく、将来への可能性を重層的・全人格的に分析して「こっちの方が合う」「この仕事でもこういうやり方だと合う」という風に評価するんです。
安田 そうなってくるともう、人間が面接で見極めるのは不可能な領域ですね。
藤井 そうですね。これまでは「お見合い&伝言ゲーム型」だったので、判断を間違える人がひとりでも入るとマッチングしなくなる。もはやそうしたやり方は、マッチング前史ですね。
AIが推進するマッチング2.0のXデーとは
安田 マッチング2.0はいつごろ実現しそうですか。
藤井 今すでにリクナビHRTech転職スカウトは2万社以上が導入しています。
安田 2万社ですか。
藤井 データが蓄積されるほど、マシンラーニングでマッチングの精度も上がっていきます。
安田 どんどん新しいマッチングが生まれていきますね。
藤井 グローバルでは、2020年HRナンバーワンを掲げています。5年以内にはマッチング2.0を国内に広く普及させていきたいですね。
安田 5年以内ですか。楽しみですね。
全6連載「藤井薫(リクナビNEXT編集長)×境目研究家・安田佳生」
Vol.1 採用とAI化の境目には何があるのか
Vol.2 変化する採用戦略と採用AI化推進の必然
Vol.3 仕事でなく人にマッチングする究極のカタチとは
Vol.4 AI化が推進するマッチング2.0で変わる働くことの意味
Vol.5 AIマッチング時代にヒトはなにをするべきか
Vol.6 非AI領域とAI化の境目にある働くの未来形とは
PROFILE

リクナビNEXT編集長
藤井薫(ふじいかおる)
1988年慶応大学理工学部を卒業後、リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社。B-ing、TECH B-ing、Digital B-ing(現リクナビNEXT)、Works、Tech総研の編集、商品企画を担当。TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長・ゼネラルマネジヤーを歴任。2007年より、リクルートグループの組織固有智の共有・創発を推進するリクルート経営コンピタンス研究所コンピタンスマネジメント推進部及グループ広報室に携わる。2014年よりリクルートワークス研究所Works編集兼務。主な開発講座に『ソーシャル時代の脱コンテンツ・プロデュース』『情報氾濫時代の意思決定の行動心理学』などがある。
PROFILE

境目研究家
安田佳生(やすだよしお)
1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。