連載:逆説的AI論
Vol.4
三宅陽一郎(ゲームAI開発者)×境目研究家・安田佳生
10Jul

境目研究家の安田佳生氏とAI専門家の三宅陽一郎氏の対談もいよいよ最終回。AIによる実在しない人間の“複製”も加速する中で、リアルとバーチャルの境界線があいまいになりつつある。その先にはどんな未来が待っているのか…。
AIがつくりだす架空の人間
安田 AIによって「実在しない人間」が、ウエブの中でつくられてるって聞いたんですけど。
三宅 どんどん作られてますね。
安田 そういう人が歌を歌ったり、お芝居をしたり、ツイーをトしたりする可能性もありますか?
三宅 もちろんあります。
安田 じゃあ、実在はしないけど、ウエブ中では経済活動をしていると。
三宅 そうなって行くでしょうね。
安田 そこに人工知能が加わったら、もはやひとつの人格というか、ひとりの人間みたいになっていきますね。
三宅 そういうものが、どんどん入ってくるのがこれからの時代でしょうね。
状況を限定すれば人間に似通ってくるAI
安田 三宅さんの仕事もそういう方面ですよね。
三宅 はい。キャラクターのAI技術はどんどん上がっていて、いずれ高速で思考できるようなるので、人間に似通ってくる。
安田 やっぱり、人間に似通ってきますか。
三宅 はい。状況を限定すると「人間か人工知能か」が、どんどん分からなくなる。
安田 状況を限定?
三宅 例えば、ジャンケンをするAIがあるとして、向こうが人間かAIかは分からない。
安田 確かに。
三宅 でも会話の場合は、20くらいやり取りをするとAIだってバレます。
安田 20もやり取りしないとバレないんですか。
三宅 ツイッターぐらいだったらバレません。
安田 なんと!そういうアカウントが出てきそうですね。
三宅 でも実際に会えば必ずバレます。人間は、小さなしぐさとか、足音、歩き方ひとつにしても見逃さないんで。
安田 そりゃあそうですよね。
三宅 でもネット空間は人間も体を捨てて入っている。つまり人間の一番のアドバンテージを捨てて入っている。その時点でほぼAIと同格になります。
安田 なるほど!
三宅 いまは人間がインターネットに直接しがみついている状態ですが、本来ネットは人間にはあまり向いていない世界なんです。
安田 じゃあ、これからはどうなるんですか?
AI搭載のアバターがネットを使いこなし自分に代わって様々なことをしてくれる
三宅 AIがネットを使こなす。それがこれからの社会。
安田 なんかイメージが沸かないんですけど。
三宅 自分のバーチャルキャラクター、つまり人工知能を搭載した自分のアバターが、自分の代わりにいろんな情報集めてきてくれる。
安田 それは凄い!
三宅 あるいは面倒なメールを代わりに書くとか。アポイントを設定してくれるとか。
安田 え!アポイントまで設定してくれるんですか?
三宅 「〇〇さんに土曜日の予定が空いてるか聞いてきて」とキャラクターに伝えると、聞いてきてくれる。
安田 相手の人は怒りませんか?
三宅 相手もAIが予定を管理してるので、キャラ同士で会話する。つまり情報交換を人間に代わってやってくれる。
安田 凄い!じゃあ営業もできますか?
三宅 人間の場合、欲しい人がいて、売りたい人がいて、一軒一軒回って売りますが、これもキャラ同士で出来てしまう。
安田 もはや人間のやることがない。
三宅 ちゃんとした知識の表現さえ出来れば「もうバーチャル上でいいんじゃないか」ということですね。
安田 いま実際に、ウェブで活躍してるヒカキンさんとか、テレビの有名人より稼いでいたりするじゃないですか。
三宅 稼いでますね。
安田 この流れで行くと、肉体をもたないAIがお金を稼いだり、人間よりも人気が出たりするかもしれないですよね。
三宅 十分にあり得ますね。最近まではバーチャル世界はバーチャル世界、物理世界は物理世界でした。今は現実空間とバーチャル空間をコネクトした状態がずっとある。
安田 繋がってるってことですか?
三宅 イングレスとかポケモンGOはそれを利用してゲームをつくってます。
安田 なるほど。
三宅 ただバーチャルなエージェントは、デジタル空間ではすごく力を持っていますが、物理世界では持ってない。
安田 物理世界ではさすがに活躍できませんか。
三宅 人間は物理世界で力を持っていて、デジタル空間では持ってない。両方とも半分ずつなんですよ。
安田 じゃあ、役割分担が重要ですね。
これからは人間とアバターのペアが最強になる
三宅 そう。人間とアバターのペアが最強ってことです。
安田 たとえば芸能人とか、本の著者とかって、もうひとりの人格を操ってるじゃないですか。
三宅 芸能人とか著者としての人格ってことですね。
安田 はい。私もwebでたくさん文章を書いてるんですけど、もうひとつの人格があります。
三宅 webの中では多くの人が、もうひとりの自分を持ってますね。
安田 そうなんです。で、実際に会ったこともない人が、私を信頼してくれてたりするわけです。
三宅 webの文章を読んで、そこにある安田人格を信頼しているということですね。
安田 はい。勝手にすごい人だと思ってて、ご飯をおごってくれたりするんですよ。
三宅 それは、そういう文章を書いているからですよ。安田さんが。
安田 確かに今のところ自分で書いてますけど、もしかしたら今後はアバターくんが書いてくれたりしませんか?
三宅 まだ発展途中ですけど。完成すればアバターは人工知能で学習して安田さんの言いそうなこと発信し続けるでしょうね。
安田 やっぱり!
三宅 さらに、簡単な悩み事ならのってあげることもできる。
安田 本物の安田よりずっと親切ですね。
三宅 現在では、SNSの有名人でも、ずっと自分か協力者がSNSに張り付いて自分の悪口を言っていないか監視しているということもあります。
安田 大変ですね。
三宅 敵がいればつぶしたり、すぐに反論を返したりして、そこに力を相当削がれてます。
安田 そういうのも、いずれはアバターくんがやってくれると。
三宅 ある程度、バーチャル側に「自立した人格」を与えれば可能ですね。
安田 AI時代のインターフェースはアバターになるかもしれないですね。
三宅 あり得ますね。
安田 じゃあ、アバターとうまく付き合っていく人が、次の時代の勝ち組になる?
三宅 まさに、そうなるでしょうね。
安田 「もうひとりの私」みたいな人工知能が、その内に販売されそう。
三宅 もちろん、そういうサービスもこれから出てくるでしょうね。今はネット人格=リアル人格なので、ネット攻撃にもろに傷ついたりする。
安田 確かに。
三宅 言葉に対する繊細さがあるほど、ツイッター地獄に入っていくんですよ。
安田 はい。ちょっとした一言で傷つきます。
三宅 人間って忘れて許してあげるけど、ツイッターはずっと残ってるんで。人間の感性に反しているんです。
安田 傷つくのが分かってるのに、ついつい見ちゃいますもんね。
三宅 永遠に悪口が残り続けていくので、毎日同じことにイライラする。しかもそれが増えていくだけ。
安田 アバターくんが間にいれば、傷つかないし良いクッションになってくれますね。
三宅 はい。用途に合わせて「いろんな役割を持ったアバター」が現れてくるでしょうね。
安田 たとえば、アインシュタインは死んじゃったけど、アバターは残ってる。みたいなこともあり得るんですか?
三宅 もちろんあり得ますよ。生きているかのように返信し続けることも可能です。
安田 織田信長のアバターとか、いたら会ってみたいですね。いきなり首を撥ねられそうですけど。(了)
<取材後記>
連載タイトルに「逆説的」とあるように基本はAI専門外の人を対談相手に設定する本企画。今回はAI専門の三宅氏に登場いただいたが、とても柔軟に対応いただいた。「AI知識は素人以下」という安田氏だったが、そのストレートな質問にもしっかり回答いただき、結果的に濃密な内容になった。少しでもAIをかじっている人には基本的な内容かもしれないが、それでもAIのダメな側面やアバターとしてのAIの可能性についてのトピックなどは興味深かったのではないだろうか。三宅氏が目指すAIは、完成するまでの道のりが長そうだが、だからこそ氏があらゆる角度からAIの可能性を追求していることを話の節々から強く感じた。(×AI編集部)
全4連載「三宅陽一郎(ゲームAI開発者)×境目研究家・安田佳生」
Vol.1 AIは人間を超えられるのか
Vol.2 得意と不得意分野がハッキリしているAIをどう考えるか
Vol.3 AI時代に生き残れる人材とは
Vol.4 AI時代のリアルとバーチャルの境目はどうなるのか
PROFILE

ゲームAI開発者
三宅陽一郎(みやけよういちろう)
京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程(単位取得満期退学)。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。 理化学研究所客員研究員、東京大学客員研究員、九州大学客員教授、IGDA日本ゲームAI専門部会設立(チェア)、DiGRA JAPAN 理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。 著書に『人工知能のための哲学塾』 『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『人工知能の作り方』(技術評論社)など。 連続セミナー「人工知能のための哲学塾」を主催。最新の論文は『大規模ゲームにおける人工知能』(人工知能学会誌 Vol.32, No.2 Web AI書庫でWeb公開)。また人工知能 学会「私のブックマーク『ディジタルゲームの人工知能 (Artificial Intelligence in Digital Game)』」に寄稿している。
PROFILE

境目研究家
安田佳生(やすだよしお)
1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。