AI時代を生き残るために必要な能力

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連載:逆説的AI論

Vol.3

三宅陽一郎(ゲームAI開発者)×境目研究家・安田佳生

AI時代に生き残れる人材とは

安田氏-三宅氏

境目研究家の安田佳生氏とゲームAI開発者・三宅陽一郎氏の対談は3回目に突入。AIの可能性に期待を膨らませる一方で、AI時代に生き残れる人材に話は発展していく――。

協働する宿命にあるヒトとAI

安田 人間よりも人工知能の方が、はるかにメモリー量が多いわけですよね。

三宅 はい。圧倒的に。

安田 人間の「ちっぽけな脳」にインプットされてる情報なんて、僅かだと思うんですけど。

三宅 人工知能に比べればそうですね。

安田 にも関わらず、料理中に猫が通っても人間は認識できる。AIはできなくて混乱する。

三宅 その通りです。

安田 人間の優秀さって一体どこにあるんでしょうか。

三宅 それはメタファーにあります。ひとつのことを学ぶと比喩的に他のことにも応用できる。

三宅氏安田 比喩的に応用できる?

三宅 たとえば将棋を学べば、囲碁も強くなる。でも人工知能はそうはならない。むしろ弱くなる。将棋に特化するので。

安田 そうなんですか。

三宅 科学実験がうまくなると、料理もうまくなるとか。「1を知って10を知る」が人間のメタファーの能力。

安田 おお!なんか人間って、すごい気がしてきました。

三宅 ひとつの椅子に座れるようになると、他の椅子にも座れるようになる。ドアノブを1個開けられると他のドアもだいたい開けられる。

人工知能が機能するメカニズム

安田 人工知能では、そうはいかないと。

三宅 人工知能は逆なんです。100万個の画像からリンゴをたった1個学習する。しかも応用範囲が狭い。リンゴは分かるけどスモモは分からない。

安田 融通がききませんね。このドアノブ開けられるけど、他のドアノブは知りません。みたいな。

三宅 今はディープラーニングのおかげで、その幅が若干広がりました。でも人間に比べるとメタファーが弱い。

安田 その差はどこから生まれるんですか?

三宅 人間は「身体性の中でメタファーを拡張できる」能力があるからです。

安田 身体性の中?

安田氏三宅 「コップを取る」というのは、人間にとって単純な動作です。でも、うまくやれるロボットはなかなかいない。

安田 コップを取るのは簡単そうですけど。

三宅 いろんな形のコップあるからです。

安田 なぜ人間は、いろんな形のコップに対応できるんですか?

三宅 そこがまさに、適当なところなんですよ。

安田 適当?

やりながら調整ができる人間の高度な能力

三宅 最初はよく分かっていないけど、「運動しながらいろんな調整をする」のが人間の特徴なんです。

安田 やりながら調整すると。

三宅 たとえばバスケットなら「とりあえずゴールに向かって投げてみよう」「ちょっとゴールのそばで跳んでみよう」「届かなかったから手を伸ばしてみよう」みたいな。

安田 なるほど。学習していくと。

三宅 ニコライ・ベロシュタインという「デクステリティ 巧みさとその発達」という書を著したロシアの生理学者が100年くらい前から研究してまして。

安田 ベルンシュタイン?

三宅 アバウトから精密なものへギュッと収束していく。そのおかげで、どんな形でも途中まで適当なんだけど、そこから精度が上がっていく。

安田 それってAIも同じなんじゃないですか?やりながら学んでいく。

三宅 いえ、AIは最初から精度を高くやろうとする。だから対応できる幅が少ない。

安田 人間でも、いますよね。記憶力があまりに良すぎて「ちょっと髪型が変わっただけで」同じ人物だと認識できない人。

三宅 はい。

安田 レインマンという映画に出てきた自閉症の主人公がそうでした。じゃあアバウトなところが、逆に人間のウリってことなんですか。

三宅 AIの感覚はモードっていうんですが、どうしても視覚だけ聴覚だけになってしまう。

一方、人間は「足音」「しぐさ」「髪型」などで多重にチェックするんです。

安田氏と三宅氏安田 なるほど。

三宅 コップが柔らかいかをチェックする時も、「音で」「触って」「見て」という何重のチェックをする。この世界を生き延びていくために一個の感覚には頼らないんです。

安田 人間ってなかなかすごいすね。

三宅 でも人工知能は身体がないので、コップを置いたことの振動も感じられない。現実世界こそ人工知能がとっても苦手な分野なんです。

安田 逆にゲームとかチェスとか、バーチャルな世界は人工知能が得意ですよね。

三宅 その通りです。人間はデジタル空間に向いてない。なぜなら我々は検索エンジンがないと何にもアクセスできないから。

安田 確かに。グーグルが使えなくなったら、何もできないですもんね。

三宅 検索エンジンは人工知能でもあって、いろんなサイトに行ってキーワード集めてくれる。人間が同じことをするのは不可能です。

安田 ひとつひとつのサイトをチェックしていくなんて、人間には絶対に無理でしょうね。

三宅 人工知能が得意なことは人間が苦手。人間が得意なことはAIが苦手。知能のカタチとして両者はすごく対極にあるんです。

安田 人工知能が普及すれば、社会で活躍する人間も変わっていきますか?

三宅 それは人工知能に始まったことではなく、例えば1970〜90年代は「コンピュータを使いこなす人」にアドバンテージがありました。

安田 コンピュータ技術者がたくさん稼いだ時代ですね。

三宅 そうです。でも95-2015年はインターネット使いこなした人が勝ちました。

安田 確かに。コンピュータというよりは、インターネットの時代でした。

AI時代に勝ち組になる人材とは

三宅 そして、これからの2015-2030は、人工知能をうまく使いこなした人が勝ちます。

安田 確かにそういう流れで来てますよね。ちなみに「AIを使いこなす人」というのは、AIの専門家ということじゃないですよね?

三宅 おっしゃる通り。コンピューターと人間とのつながりが、インタフェースによってすごく簡単になる。

安田 インターネットもそうでしたもんね。

三宅 ネットの時代もそうでした。スイッチを入れたらつながる。どんな人でも使えるようになりました。

安田 AI時代もそうなっていきますか?

三宅 どんな人も「AIとコミュニケーションできた」上での勝負にならなきゃいけない。

安田 そうなったら楽しそうですね。

三宅 人工知能産業がやるべきは、インタフェースをできるだけ簡単にすること。そこを取ることこそが、これからのビジネスチャンス。

安田 人工知能と人間の境目をなくすことですね。

三宅 AI系の企業はこれから「人間と人工知能の間の研究」を進めていくでしょう。いずれは職業ごとに、多様なインターフェースが出てくると思います。

安田 たとえば「スマートスピーカー」なんかも、そのひとつですよね?

三宅 海外の人は「それは音声のハズだ」という直感みたいなのがある。ひとつはアメリカが車社会だから。車だと目は全部持っていかれてしまう。空いているのは耳と口しかない。

安田 なるほど。

三宅 だから必然的にインターフェースは音声になる。日本は電車での通勤も多いですから状況が少し違う。手や眼なども空いている。そこが根本的に違いますね。

安田 海外と日本では、インターフェイスが変わってくる可能性があると。

三宅 海外は「言葉」というものに、すごく重きを置いて人工知能の開発しています。言葉こそが知能の現れだといいますし。ドグマ的なものも持っている。

安田 聖書にも出てきますもんね。

東洋と欧米のAIに対する認識の大きな相違点

三宅 「はじめに言葉ありき」の人たちですからね。東洋だと逆に言葉なんてただの影でしょと。面白いことに真逆なんです。欧米と日本人の考える人工知能が。

安田 真逆なんですか?

三宅 微妙に食い違っている。すごく極端な話をすると欧米では神様、人間、人工知能の縦のラインを崩すことはない。間違っても人工知能とニンゲンを同列に置いたりはしない。

安田 欧米での人工知能は人間の下で、日本では対等だと。面白いですね!

三宅 だから向こうのAIの映画は、上下関係が入れ替わる話ばっかり。それが怖いから。

安田 確かに!

三宅氏三宅 ところが日本は違う。だから欧米から見たらAIBOにもビックリするわけですよ。なぜペットがAIでなければならないのか。なぜそこまでAIを人や動物の型にしたがるのか。

安田 日本人はロボットアニメで育ってますから。

三宅 スピーカーまで、カエルとかドラえもんになっちゃってる。

安田 そのほうが取っつきやすいじゃないですか。

三宅 あれは向こうからすると子供っぽい。日本は大人でもキャラクターが好きで、そこに人工知能をのせてくる。

安田 今後はどうなっていくんですか?

三宅 海外は音声重視へと進んでいくでしょうね。

安田 じゃあ、また日本はガラパゴス化して孤立する?

三宅 いや、インターフェースが音声と決まったわけじゃない。もしかしたら、時代は日本的に変わっていくかもしれません。(続く)

PROFILE

ゲームAI開発者

三宅陽一郎(みやけよういちろう)

京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程(単位取得満期退学)。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。 理化学研究所客員研究員、東京大学客員研究員、九州大学客員教授、IGDA日本ゲームAI専門部会設立(チェア)、DiGRA JAPAN 理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。 著書に『人工知能のための哲学塾』 『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『人工知能の作り方』(技術評論社)など。 連続セミナー「人工知能のための哲学塾」を主催。最新の論文は『大規模ゲームにおける人工知能』(人工知能学会誌 Vol.32, No.2 Web AI書庫でWeb公開)。また人工知能 学会「私のブックマーク『ディジタルゲームの人工知能 (Artificial Intelligence in Digital Game)』」に寄稿している。

PROFILE

安田佳生

境目研究家

安田佳生(やすだよしお)

1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。

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