AI時代を苦にしない税理士の脳みそ

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連載:逆説的AI論

Vol.4

大久保圭太(税理士)×境目研究家・安田佳生

気鋭の税理士が目指す新しいビジネススタイル

大久保氏

財務に強い税理士の大久保圭太氏と境目研究家の安田氏の対談最終回は、AI時代に負けない税理士集団を生む、独自の運営ノウハウを公開。士業の概念に縛られない税理士が目指す、新しいビジネススタイルの一端に境目研究家が切り込む。

『100人のパートナーをつくる』

安田 資金調達を手伝える税理士さんって、実際のところ、どれぐらいいるんですか?

大久保 税理士に絞ったら、1割もいないでしょうね。

安田 税理士以外だったら?

大久保 銀行出身で、財務コンサルやってる人とか。

安田 そういう人の方が、税理士さんより頼りになるんですか?

大久保 という人もいます。ただ見分けるのは難しい。だから税理士に聞いちゃうんでしょうね。

安田 税理士って言うだけで、信頼できそうな気がしますもんね。国家資格ですし。

大久保 そうなんですよね。実際、財務をビジネスにするなら税理士の方が断然有利ですね。

安田 それは、信頼があるからですか?

大久保 iPhoneと同じですよ。

安田 iPhoneですか?

大久保 はい。僕も最初は、財務単体でいこうと思ってたんですよ。

安田 それでは広まらなかった?

大久保 iPhoneも「新しいコンピューターです」って言ったら、売れなかったと思います。「電話です」って言ったから売れた。

安田 なるほど。電話だと思って買ったら、じつは電話じゃなかったと。

大久保 もちろん、電話の機能もあるんですけど、それがウリではなかった。

安田 それと同じだと?

大久保 同じで、税理士が必要と思ってるんですよ。そこに財務のせて「新しい税務です」って言ったら、アホみたいに売れた。

安田 「財務の専門職です」って言うと、売れない?

大久保 「財務ができる」って言われても、分かんないんですよ。根拠がないので。

安田 税理士さんというだけで「財務わかるんだろうなー」って思ってくれると?

大久保 錯覚を利用したビジネスモデルですね。

対談する大久保と安田安田 いやいや、錯覚ではないでしょ。実際に財務を手伝ってるわけですから。

大久保 まあ、そうなんですけど。頼む方はその違いが分かってない。

AI時代到来で税理士はどうなっていくのか

安田 じゃあ、財務できる風の税理さんが、これからも増えていく?

大久保 いや、「税理士には財務が分からない」ってことが、だんだんバレてきてるんで。

安田 ということは、やっぱり帳簿屋さんになっていくんですか?

大久保 まだ、しばらくは、それで食えるでしょうね。最終的には申告も自動になるでしょうけど。

安田 AIが取って代わるってことですか?

大久保 そんな凄いもんじゃないです。領収書をスキャンするのが、機械より人間のほうが安いってだけ。泥臭い仕事ですよ。悪いとは言わないけど。

安田 かなり重労働ですね。

大久保 もうひとつの方向性としては、高付加価値業務になっていく。

安田 それが財務ですか?

大久保 高付加価値の税務っていったら、国際しかないと思いますね。

安田 国際税務?

大久保 まあでも、そこは大手税理士法人がやるでしょうね。個人事業で国際税務を極めるってなかなか難しいと思う。

安田 なるほど。

大久保 だから財務かなと、僕は思っていて。ほとんどの経営者は困ってるんで。

安田 困ってるというか、困ってることにも気がついてないですよね。

大久保 380万社ある中で、銀行のことが分からない人ばっかり。だからマーケットはかなり広いと思うんですよ。

安田 じゃあ、そこをやる税理士さんは増えていくと?

大久保 やればいいと思ってるんですけど、なかなかみんなやらない。

安田 やっぱ難しいんですか?

大久保 経営のセンスも必要だし、そもそも「経営には金がいるんだ」っていう頭の切り替えが必要。

安田 頭を切り替えれば「財務で食える」って税理士さんは、どのぐらいますか?

大久保氏大久保 税理士ってくくると、1割いないかもしれないですね。会計士の若手の子たちだったらやれるかも。

財務で食える税理士になる方法

安田 大久保さんって、今、「学びたい人は教えてあげるよ」みたいなことを、やってるじゃないですか?

大久保 はい、やってますね。独立とか、のれん分けとか。

安田 でも同業者が増えるのって、脅威じゃないんですか?

大久保 別にないです。経営者さんから、どんどん問い合わせが来てて、対応できてない状態なので。

安田 じゃあ、カラーズに来たら「ノウハウは教えてあげるよ」と。

大久保 そうです。

安田 ホントですか?そんなうまい話があるのかって思うんですけど。

大久保 疑り深いですね(笑)。

安田 騙されて一生搾取され続けるとか。ありませんか?

大久保 ありません。

安田 ホントにちゃんと教えてくれますか?

大久保 教えます。

安田 何のメリットがあって教えるんですか?

大久保 ウチは看板代を少しもらうぐらいです。

安田 それは、どれぐらいなんですか?

大久保 うちが営業から全部やる場合は、フランチャイズに近いので20%ですね。

安田 完全に独立してやってもいいんですか?

大久保 ぜんぜん構わないです。

安田 太っ腹ですね。

大久保 だって、できる人が増えた方がいいじゃないですか。

安田 それは困ってる経営者が多いからですか?

大久保 困ってる人だらけですから。

安田 なるほど。じゃあ、大久保さんが教えるとして、何年ぐらいで出来るようになるんですか?

大久保 センスがあれば、1年で出来るんじゃないですか。

安田 1年で出来ます?

大久保 はい。

安田 ちなみに、その修行期間は、タダ働きですか?

大久保 いや、普通に給料払いますけど。

安田 で、独立してもいいと。

大久保 はい。

安田 カラーズのブランドを使い続けてもいいんですか?

大久保氏大久保 本当は、その方がいいですね。別に縛る気はないですけど。「カラーズ」っていうブランドが広がれば、お互い営業もしやすいですから。

安田 その場合は、ブランド使用料とか、加盟料みたいなのは、あるんですか?

大久保 いや、ないです。ウチから紹介した場合は20%のフィーをもらいますけど。

安田 弟子みたいなもんだと思うんですけど、何人ぐらい育てようと思ってますか?

大久保 弟子というか、パートナーですけど。100人を目指してます。

安田 100人ですか!すごいですね。

大久保 そのくらいは必要だと思いますよ。

安田 ちなみに今、何人ぐらいいるんですか?

大久保 今、独立という形でやってる人は3人です。

安田 それは税理士資格を持ってる人ですか?

大久保 税理士1人と資格なし2人です。

安田 資格を持ってない人でもOKなんですか?

大久保 そこはウエルカムですね。ただ申告に関しては、税理士法の問題があるのでウチでやりますけど。財務コンサルと税務担当を分ける感じ。

安田 じゃあ税理士じゃなくても、財務コンサルで独立できる?

大久保 うちのパターンでやれば出来ますね。税理士法違反にならないように、税理士と組んで財務コンサルを磨く。

安田 で、案件は紹介してあげると?

大久保 そうです。案件いっぱい来ますので。

安田 素晴らしい。(了)

Colorz


<編集後記>

単価の高さで他の税理士より稼ぐ大久保氏は、まさに価値がある税理士だから稼いでいる。税理士の仕事は、AIによって代替できる部分が多く、5年もすれば仕事の大半が取って代わられても不思議はない。その中で大久保氏は、顧客に対し、強く訴求できる部分をより尖らせることでその価値を高めている。

AIに仕事を奪われるランキングで上位に入る職業は、単調で自動化しやすい業務が中心だ。大久保氏は対談中何度も「ググればわかる」と口にした。誰もが使えるツールに専門家としての“答え”があり、それをいつでも引き出せる状況下では、もはや知識だけの専門家ではツールに埋もれるだけだ。

企業に資金を調達する財務を武器にクライアントの絶大な信頼を集める大久保氏。その税理士としてのスタンスが、AIの苦手なパターン化されていない部分に集中しているのは決して偶然ではないだろう。大抵のことが「ググれば分かる」世の中で、ググっても分からないことにニーズが出るのは必然で、そこにいち早く着目した大久保氏のビジネスセンスが、そのまま付加価値になるのは当然だ。

今回、AIに仕事を奪われるリスクの高い職業として安田氏は税理士にフォーカスしたが、そうした職業が厳しい状況の中で生き残るヒントの多くが今回の対談の中に詰まっていたように思う。つまり、業務におけるAIが弱い部分を見出し、研ぎ澄まし、それを武器にクライアントに向き合う。当たり前だが、それがAI時代に埋もれないビジネススタンスといえる。別の言い方をすれば、AIによって、本来やるべき業務により時間を割けるようになる。そう捉えれば、視界は一気に広がるハズだ。

業界の慣習や抵抗勢力による反発でAI時代の本格到来はどうしても技術的進歩の速度に現実が遅れがちになる。だが、それは一時的でしかなく、“延命措置”に過ぎない。そうしたことにエネルギーを費やすなら、自分の業務における人間にしかできない領域にいち早くフォーカスし、仕事としての付加価値を徹底して高める。そこに全力を尽くすことが、今後30年、AIに代替されることなく食っていくために必要な“措置”といえる。(×AI編集部)

全4連載「大久保圭太(税理士)×境目研究家・安田佳生」
Vol.1 AI時代に生き残る税理士の考え方とは
Vol.2 AI時代に稼げる税理士はなにをしているのか
Vol.3 AI時代に知っておくべき、お金の処方箋
Vol.4 気鋭の税理士が目指す新しいビジネススタイル

PROFILE

Colorz国際税理士法人代表社員 税理士

大久保圭太(おおくぼけいた)

早稲田大学卒業後、会計事務所を経て旧中央青山PwCコンサルティング(現みらいコンサルティング)に入社。中堅中小企業から上場企業まで幅広い企業に対する財務アドバイザリー・企業再生業務・M&A業務に従事。2011年に独立し、再生案件にならないような堅実な財務コンサルティングを中心に、代表として累計1000社以上の財務戦略を立案している。著書に「借りたら返すな!」(ダイヤモンド社)など。Podcast「財務アタマを鍛えるラジオ〜マネトレ〜」を配信中。

PROFILE

安田佳生

境目研究家

安田佳生(やすだよしお)

1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。

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