連載:逆説的AI論
Vol.2
大久保圭太(税理士)×境目研究家・安田佳生
30May

財務に強い税理士の大久保圭太氏と境目研究家の安田氏の対談2回目は、稼げる税理士はなにをしているかについて肉迫。そこから見えてきたのは職業的な“体質”が、思考停止を醸成しているという事実だ。そこからは、AI時代に埋もれない職業観もあふれ出てきた。
『借金を勧める税理士・勧めない税理士』
安田 大久保さんは、すごく儲かってるように見えるんですけど。
大久保 いえいえ。
安田 いや、答えにくいでしょうけど、教えてください。大久保さんは、なんで儲かってるんですか?
大久保 まあ、ぶっちゃけて言えば、単価が高いからですね。
安田 高いんですか?
大久保 はい。「他の税理士と比べて」ってことですけど。
安田 それは、申告とかの手数料が高いってことですか?
大久保 顧問料が高いんです。申告料とかじゃなくて。
安田 じゃあ、申告料は?
大久保 申告料は普通です。
安田 なるほど。違いは顧問料にあると。どれくらい高いんですか?
大久保 普通の税理士の倍くらいじゃないですか。
安田 それって、いくらぐらいなんですか?
大久保 大体、月10万円ぐらいですかね。
安田 ということは、通常は5万円ぐらいってことですか?
大久保 そんなもんじゃないですかね。最近はどんどん下がってきてますけど。
安田 じゃあ、通常の倍ぐらいの顧問料をもらってるから、儲かると。
大久保 そういうことです。
安田 なぜ倍も払ってもらえるんですか?
稼げる税理士はなぜ単価が高いのか
大久保 僕らは、財務に特化してるから。つまりお金の相談に乗れるってことです。
安田 普通の税理士さんは、お金の相談には乗れないんですか?
大久保 だって、お金のことなんて、まったく分かりませんから。
安田 なんと!税理士さんなのに?
大久保 税理士の資格を取るのには、五科目合格する必要があるのですが、その中に、「財務やお金に関する事」はありません。簿記論とか、法人税の法律を丸暗記するとかなんです。だから税理士は税金には詳しいけど、会社のお金には詳しくない。
安田 でも、税理士さんにお金の相談してる経営者さんって、多いですよ。
大久保 中小企業の経営者は気がついてないんですよ。
安田 じゃあ、税理士さんにお金の相談はしちゃいけない?
大久保 普通の税理士には相談しちゃいけないです。間違ったことを教えられるので。
安田 嘘を教えるってことですか?それは何のために?
大久保 財務問題の厄介なのは、税理士たちも錯覚していて「自分はお金の専門家だ」と思ってること。
安田 でも実際は、専門家ではないと?
大久保 銀行からお金を借りるとか、返さない交渉とか、やったことない人ばかりだから。
安田 やったことないけど、アドバイスしちゃうと。
大久保 「社長、借りれますよ」「どこで借りたらいいの」「それは社長が頑張ってください」みたいな。
安田 アドバイスとも言えないみたいな。
大久保 基本そんな感じです。
安田 税務は出来るんですよね?
大久保 税務のプロですから。
税理と財務の違いとは
安田 税理と財務って、何が違うんですか?
大久保 使ったお金を仕分けして、帳簿作って、申告するのが税務。
安田 財務は?
大久保 財務は、将来使うお金を集めてきたり、投資の相談に乗ったり、MAする会社を探したり。
安田 一番多いのは、どういうお手伝いですか?
大久保 投資していくための手元資金を、増やす手伝いですね。
安田 それは税理士さんの得意分野じゃないんですか?節税して、手元資金を増やすっていう。
大久保 節税したら手元資金は減ります。
安田 税金を払わないのに?
大久保 節税するためには、お金を使わないといけないじゃないですか。
安田 まあ、そうですね。そのために保険とか、勧められますよね。
大久保 みんな節税大好きなんで、すぐ保険入りますよね。100パー戻ってこないから絶対損するんですけど。
安田 確かに、節税し続けても、ぜんぜん手元資金って増えませんよね。
大久保 そうです。
安田 どうやったら増えるんですか?
大久保 1番手っ取り早いのは、借り入れですね。
安田 借り入れするためには、何が必要なんですか?
大久保 借り入れができる決算書ですね。僕らはそうなるように決算を組んでいきます。粉飾っていうことじゃなくて。
安田 節税はしない?
大久保 節税しない方がキャッシュが増えるし、銀行も貸してくれます。
安田 銀行って、なぜか儲かってる会社に貸したがりますもんね。
大久保 よく、銀行は晴れの日に傘を貸して、雨の日に傘を貸してくれないって皮肉ったりします。本当に困ったときにお金貸してくれなくて意味ないですよね…。将来的には「AIが事業性を評価して融資する」ってことが可能になるかもしれませんけど、まだぜんぜん過渡期です。
安田 結局は今まで通り?
大久保 はい。BSが強い会社とか、キャッシュ持ってる会社に、お金が出てくる。
安田 なるほど。じゃあ、節税しないで現金を残して、銀行の融資もしやすくする。目先の節税よりよっぽど資金が増えると。
大久保 そんなこと、ちょっと考えたら分かる気がするんですけど。
埋もれる税理士はなにがマズいのか
安田 なぜ、多くの税理士さんは、そうしないんですか?
大久保 まず、そういうことを知らないですよね。
安田 知らないんですか?
大久保 ビジネスやったことがないですからね。税理士さんにビジネス相談するのは最悪ですよ。伸びる会社の社長は、その辺やっぱりわかってる。
安田 私も最初は分かんなかったです。「お金を使って売上をつくる」という発想に至るまで、10年以上かかりました。
大久保 多くの経営者は「労働して金を稼ぐ」ところで思考が止まってますね。
安田 そう思います。「金を使わないと、金って増えないよ」って教えて欲しかったです。
大久保 それができる税理士は少ないです。本人たちが使ったことないので。
安田 多くの税理士さんは、頭脳労働という名の肉体労働をしてますよね。
大久保 税理士って、典型的な労働集約型のモデルなんで。
安田 「お金を借りて、投資して、事業して」っていう税理士事務所は少ないんですか?
大久保 少ないですね。だって怒られますもん、先輩の税理士さんに。なんで借金してんだって。
安田 何と!
大久保 マジで怒られるんですよ。「バカじゃないか」って。
安田 これだけ金利が安いのに?
大久保 調達天国ですよね。まともな経営者が考えたら。
安田 絶対そうですよ。私だって、借りれるものなら、どんどん借りますよ。
大久保 でしょ?だって金利1%以下ですからね。
安田 1億借りて金利100万以下ですよ。1億使って100万利益出せないんだったら、経営者やめたほうがいいです。
大久保 おっしゃる通りです。
安田 金があればあるほど事業の幅は広がるし、勝てる確率も上がるのに。なんで借りたがらないんですかね。
大久保 借金が怖いんでしょうね。
安田 刷り込まれてるんでしょうか?
大久保 だって、税理士が言いますもん。「借金ない方がいい」って。
全4連載「大久保圭太(税理士)×境目研究家・安田佳生」
Vol.1 AI時代に生き残る税理士の考え方とは
Vol.2 AI時代に稼げる税理士はなにをしているのか
Vol.3 AI時代に知っておくべき、お金の処方箋
Vol.4 気鋭の税理士が目指す新しいビジネススタイル
PROFILE

税理士
大久保圭太(おおくぼけいた)
Colorz国際税理士法人代表社員。税理士。早稲田大学卒業後、会計事務所を経て旧中央青山PwCコンサルティング(現みらいコンサルティング)に入社。中堅中小企業から上場企業まで幅広い企業に対する財務アドバイザリー・企業再生業務・M&A業務に従事。2011年に独立し、再生案件にならないような堅実な財務コンサルティングを中心に、代表として累計1000社以上の財務戦略を立案している。著書に「借りたら返すな!」(ダイヤモンド社)など。Podcast「財務アタマを鍛えるラジオ〜マネトレ〜」を配信中。
PROFILE

境目研究家
安田佳生(やすだよしお)
1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。