理屈では理解できない反応を起こす人間の脳と体の謎の関係

あまりに複雑怪奇な人間の動きをデータ化することは可能なのか…

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【編集後記拡大版】 AIは人間になれず、人間はAIにあらず…

ヒモトレをする安田氏

対談後の“実践編”では理解不能な出来事が連発

身体の動きを研究する甲野氏と境目研究家・安田氏の対談。この対談企画は毎回、シナリオなしの一発勝負だが今回、私は時に理解不能で複雑な動きや反応をする人間を甲野氏がどう解釈し、AIに取り込む場合、どう認識させるのかをイメージしながら拝聴していた。

対談前半では、人間がいかに不完全であり、動物もまた、本能に支配され、通常では考えられない行動をとることなどが語られた。あまりに不可思議な行動をとる人間を解明するのはそもそも可能なのだろうか…。そんな疑念さえ湧く、興味深くも怪しげな展開が続いた。

後半では実践編とばかりに、甲野氏が実際に“体の不思議”を体感させてくれた。ヒモトレと呼ばれるヒモを使ったトレーニングでは、胴や膝にヒモを緩く巻き付けるだけで通常では発揮できないチカラが出ることを実際に経験させてもらった。それ自体不思議だが、ヒモが丸いタイプでは効果があり、きしめんのような平打ちのヒモでは機能しないという、どうにも理解できない事実も体験した。

甲野氏は対談で2019年1月末に「自分の技に大きな進展があった」と口にしていた。武術研究者として、これまで信じていた考えが一変するような気付きがあったという。その実例として、パンチを実践してみせた。

拳を受ける安田氏 「払ってください」というので警戒して待っていると、拳が飛んでくる。飛び切り速いわけではないので払ったのだが、払うことが出来ず、逆に払おうとしたこちらの体勢が崩れた。私は決してドン臭い方ではない。むしろ俊敏な方だ。だが、何度やられても結果は同じ…。通常のパンチが来る軌道やタイミングと明らかに違う。だから、予測ができない。そんな印象だ。

甲野氏は「プロボクサーでも払えないでしょう」と明言した。津波が、陸にぶつかると突如猛威を振るうように、エネルギーの移動の仕方が従来のパンチとは違う。従来のイメージが頭に刷り込まれてしまっている。だから、どうしても反応が遅れ、払っても、いなしても、いや払うと逆にその威力を実感させられる。

こんな複雑怪奇メカニズムを一体どう解読してAIに移植するのか…

身体を動かすというのは脳で考え、そこから神経が伝達されることで達成する。そうだとするなら、人工知能がより人間に近づいていくプロセスでは、身体と連動したプログラムが必要になることは間違いないだろう。実際にそうした研究も行われている。

だが一方で、甲野氏が実践で示してくれた体の動きや反応は、理屈ではとうてい理解できない。普通なら払ったりいなしたり出来る拳が、払うと逆にこちらの体勢が崩されることや、緩く丸ヒモを結ぶだけで体がシッカリしてくることは、現実にそうであっても理解ができない…。ましてや本能や火事場のバカ力なんてものも存在する。これをデータがなければただの超高性能計算機でしかないAIにどう入力するのか。そもそも入力データとして解読できるとは到底思えない。

甲野氏は数十年の研究が一変する気づきが始まった時、「合気道をしていたことをひどく後悔した」という。つまり、新たな動きを頭では理解していても、体に染みついた行動のメカニズムが、その新しい動きの学習を妨げてしまうのだ。

AIが、正解となるデータをあらかじめ教えれば人間を凌駕するアウトプットを弾き出すことは確かだろう。だが、その正解といえるデータが、本当に正解なのかは実は分からない。そうだとすれば、AIは人間の脳に近づく過程で延々と学習し続け、迷宮に入り込むことも避けられないように思う。

AI研究の究極ゴールといえる 汎用人工知能(AGI)の研究が無事結実するかはともかく、人間のメカニズムはあまりにも複雑怪奇だ。パーフェクトが基本のAIとは相いれない。今回の安田-甲野対談で感じたのは、まさに人間とAIの間には明確に境目があるということ。そのことが、汎用人工知能実現を左右するかは分からないが、極めて険しい道のりになるのではないかと感じることしきりだった。(カケルAI編集部)

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