AI時代に埋もれない経営を実践する企業の共通項とは

AI時代に埋もれる経営と埋もれない経営の境目ない『ワクワク』経営の実践術

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連載:逆説的AI論

Vol.4

小阪裕司(ワクワク系マーケティング)×境目研究家・安田佳生

AI時代に埋もれない経営と埋もれる経営の境目

安田-小坂

AI時代にむしろ、元気いっぱいの企業には共通項がある。そのキーワードは「ワクワク」だ。小阪氏との対談最終回となる今回、心躍るようなサービスで顧客をファンにするその経営術の極意に境目研究家・安田氏が肉薄する。

架空の世界、現実の世界

安田 世界観が大事って話でしたよね。

小阪 繰り返し同じこと言うようだけど、物やサービスがなかった時代には供給することに価値があった。

安田 だから世界観よりも、大きくすることに価値があった。

小阪氏小阪 そう。松下幸之助の水道哲学のように、あまねく人に行き渡せるためにはコストダウンしなきゃいけない、そのために規模も大きくなきゃいけない。

安田 でもそれが変わりつつある。

小阪 そこに関しては、テクノロジーが代替えするようになったということです。

安田 家に居ながらにして、安く、早く、何でも手に入りますからね。

小阪 そういうことです。これからは「世界観を持って世界を売る」というビジネスが、一方の主流になります。

安田 規模を追求してはならないと。

小阪 1店舗でしかできないという意味ではないんですよ。1億、2億のスケールしかできないということでもない。

安田 それが目的になっちゃいけない、ということですよね?

小阪 何を売るかによって、どれぐらいの規模がいいのかは変わってくる。世界観が薄まっちゃうとダメ。

安田 世界観が薄まらない規模。なるほど。

小阪  その世界に「どれだけ共鳴してくれる人がいるか」で決まるということです。

安田 こちらが勝手に拡大できるものではないと。

小阪 世界を広げる努力は必要なんですけど、無理やり拡大することは出来ない。

テクノロジーに負けない商いに必要なこと

安田 じゃあ、魅力的な世界観をつくりあげるために、必要なことってありますか?

小阪 遊び心だろうね。

安田 遊び心?

小阪 たとえばウチの会員さんには、やたら歌舞伎を観に行ったりしてる人がいますね。

安田氏安田 歌舞伎ですか?

小阪 ある和菓子の製造業ですが、自分の世界観と歌舞伎を融合させて、新しいアイデアとかサービスとかを考えたり。

安田 なるほど。「他の世界観に触れて、自分の世界観を磨く」という感じですね。

小阪 まさに。

安田 でも、そういうのに興味のない経営者って、いますよね。

小阪 いますいます。

安田 偽物でも何でも、時計は動きゃいいんだとか。機能優先で、世界観とかにはまったく興味がない人。

小阪 そういう経営者は、これからしんどいと思いますね。

安田 「しんどい」という共通項で、もう一つ聞きたいんですけど。

小阪 何でしょう?

安田 「お客さんを集める」のもしんどいんですけど、「働く人を集める」のが今ものすごくしんどくて。

小阪 そうみたいですね。

安田 ひとりでやるならいいんですけど、人が居ないと成り立たない商売もあるじゃないですか?

小阪 たくさんありますね。

安田 世界観が持つ求心力って、働く人を集めるのにも有効なんですか?

人材をひきつける経営の共通項とは

小阪 有効ですね。最近うちの会員さんでよく起こっている出来事は、お客さんが社員になること。増えていますね。

安田 お客さんが社員に?

小阪 はい。しかもまったく畑違いのところから。

安田 たとえば、どのような?

小阪 「靴屋さん」なのに「有名国立大学の医学部の大学院生」が就職したいって連絡して来たり。

安田 どういう靴屋さんなんですか?

小阪 やっぱり普通の靴屋とは違って、「生涯自分の足で歩く(そのための靴)」という世界を売ってるんですよ。

安田 靴屋という仕事ではなく、その世界観に共感したんでしょうね。

安田氏-小坂氏対談小阪 「自分がやりたいことを、そのままできる会社だ」って。「すごく探して見つけました」と言われたそうです。

安田 すごいですね。でもかなり特殊なケースに見えるんですけど。一般的に不人気と言われている外食とかでも、同じようなことは起こりますか?

小阪 普通にあります 。お客さんが社員さんになったり、パートさんになったり。

安田 好きが高じて、ということでしょうか?

小阪 僕らは「応援者」って呼んでるんですけど、お客さんの何割かは「こっち側」になりたくなるみたいですね。

安田 こっち側?

小阪 究極の「こっち側」は就職してしまうことなので。

安田  なるほど。面白いですね。

小阪 「世界を伝え・教える」という商いをやると、こっちが師匠で顧客が弟子になるんですよ。

安田 お客様は、神様ではなく弟子だと。

小阪 もちろん、顧客をないがしろにするわけじゃないですよ。ただその関係が高じてくると「好き」とか「尊敬」とかの感情が芽生えて「こっち側」に来ますね。

安田 自分も誰かに「教えたくなる」のでしょうか?

小阪 そういう人もいますね。お客さんが勝手に店内を案内して説明しているとか。

安田 それはすごい。損得を超えてますね。

小阪 こっちの側はね。 一方で向こう側は、将来性とか待遇が大きなウエイトを占める世界。

安田 向こう側で働きたい人は、まだまだ多いですけど。

小阪 でも、そういう人たちばっかりじゃないんだよね。

稼ぐためにしんどいことをするのは常識なのか

安田 「稼ぐためには、しんどいこともやらなきゃ」っていうのが常識でしたけど、どう思いますか?

小阪 今はそれが逆転しつつあるよね。

安田 ですよね。我慢して仕事してる人ほど、稼げてない感じ。楽しんでやっている人の方が、だんだん豊かになって来てる。

小阪 今まではマーケティングできないとお客が作れなかったですから。でも今は好きなことをやってると応援者が増えていきます。

安田 そうですよね。

小阪 最近ね「親子で聞くワクワク系セミナー」というのを始めたんですけど、その第1回目に来た最年少は12歳です。

安田 12歳。小学生ですね。

小阪 はい。一番上は26歳だったんですけど、驚くことにこのあたりの年代の子達って「社会に出て仕事を始めたら人生終わり」っていう感覚なんですよ。

安田 かなり深刻ですね。セミナーに参加して、変化はありますか?

小阪氏小阪 この間セミナーに来た22歳の女の子は「父がワクワク系始めて、人生も家族も変わった」って、すごく言ってましたね。

安田 お父さんは、どんなお仕事なんですか?

小阪 加工野菜のメーカーさんですね。

安田 なるほど。どんな風に変わったんでしょうね、ご家族は。

小阪 「父が毎日仕事を愉しそうにするようになった」って言ってました。それが家族関係にも影響していると。

安田 でも「愉しくて稼げる仕事」と「愉しくなくて稼げない仕事」だったら、迷う必要ないと思うんですけど。なぜ仕事を愉しもうと思わないんでしょうか?

若者が楽しくて稼げる仕事を簡単に選ばないワケ

小阪 今、大学で若い子に教えているんですけど、そこで実感することがあります。

安田 何でしょう?

小阪 そういう世界の存在を、見たことがないんですよ。「愉しそうに仕事をやる」なんてのは架空の世界。

安田 なんと。架空の世界ですか?

小阪 愉しそうに仕事やって稼いでる人とか、生き生きと仕事をしている人とかが、彼らの周りにいないんですよ。

安田 なんか可哀想ですね。

小阪 でも会員さんの事例を講義などで話すと、途端に目の色が変わります。多分「こんな世界があったんだ!」という感覚なんだと思います。

安田 それを小学生ぐらいから教えるって、すごく意義がありますね。

小阪 ある女の子が「夏休みの自由研究」をワクワク系にしまして。

安田 なんと!

小阪 「いかにワクワク系で母親のカフェを流行らせるか」って。実験して、計測して、売上をあげてましたよ 。

安田 それは素晴らしいですね。

安田小阪対談小阪 もっとみんな目覚めていって欲しいですね、自分のアートに。別に起業しろってことじゃなく、会社の中でもできることだから。

安田 仕事ほど愉しい遊びは、ないと思うんですけどね。

小阪 僕も、つくづくそう思います。仕事が愉しくなると、人生はほとんど愉しいことばかり。

安田 今は過渡期なんでしょうね。

小阪 少しずつですが、確実に変わりつつありますよ。

安田 若い子たちから変わっていく予感がしますけど。

小阪 間違いないでしょうね。(了)

第一回⇒AI楽観論に潜む意外な盲点


【編集後記】
マーケティングのプロフェッショナルであり、情報学の博士でもある小阪氏は、AIのポテンシャルをすっかりお見通しだ。一般的にマーケティングはAIにとって替わられるとみられているが、それ以上に「おもてなし」でもAIが人間を上回ると当たり前のように言った。情報を大量に持っていることが前提だが、確かに中途半端に忖度する人間に比べれば、あらゆる情報を解析し、いろいろな形で提案するAIの方が、よっぽど使える。特に購買行動においては、店員との妙な掛け合いでなく、ズバリ、好みをレコメンドしてくれる方が数倍ありがたい。そうした中で、経営者は顧客をひきつけ続けなけらばならない。大変な時代になったものだが、小阪氏にいわせれば、「思考の飛躍」がポイントになると助言する。データからの解析でなく、人間の「ワクワク」をベースにサービスを考える。これは当たり前のようだが、なかなかできていない部分といえる。考えてみればこれまで、仕事といえば伝票処理やデータ分析など、単調で煩雑な作業に忙殺されてきた。だが、AIやRPAの進化で、そうした作業の多くは人間が手を動かす必要がなくなりつつある。ワクワクすることに割ける時間が増大するわけだ。AI時代。それは、仕事を奪われる脅威にさらされる時代でなく、人間がいよいよその本領を発揮する時代。そう感じさせる、意義深い対談だった。(カケルAI編集部)

PROFILE

ワクワク系マーケティング

小阪裕司(こさかゆうじ)

山口大学人文学部卒業(美学専攻)。社会人選抜の飛び級にて、工学院大学大学院博士後期課程入学、2011年3月博士(情報学)取得。作家、コラムニスト、講演・セミナー講師、企業サポートの会主宰、行政とのジョイントプログラム、学術研究、ラジオ番組パーソナリティなどの活動を通じ、これからのビジネススタイルとその具体的実践法を語り続ける。人の「感性」と「行動」を軸にしたビジネスマネジメント理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県から千数百社の企業が参加している。著書は『「お店」は変えずに「悦び」を変えろ!』(フォレスト出版)はじめ、新書・文庫化・海外出版含み計39冊。

PROFILE

安田佳生

境目研究家

安田佳生(やすだよしお)

1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。

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