22Mar

総合人材サービスのパーソルグループでIT・ものづくりエンジニアの人材派遣を手掛けるパーソルテクノロジースタッフ(株)(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:礒田 英嗣)が、独自開発AIにより、求人と登録エンジニアとのマッチングをスタートした。その狙いや目指すカタチはどんなものなのか。開発担当者に聞いた。
AI活用でエンジニアのキャリア形成支援にかける時間を捻出
――開発の目的を聞かせてください。
エンジニアのキャリア形成支援にもっと時間をかけたいとの思いからです。エンジニアの転職マーケットにおいては、求人数が増加し、また、いただくニーズもスピーディーかつ多様化している状態が続いており、求人と登録スタッフのマッチングに多くの時間を費やしてきました。キャリアコーディネーター(以下、コーディネーター)が、長期的な目線で、エンジニアの今後の展望やキャリアプランを詳細にヒアリングしたうえで、将来を見据えた選択肢を提案できるような体制を作るために、マッチング業務を見直すことが必要だと考えました。
――これまでは、そうした部分にどのくらいの工数を要していたのですか?
当社へ登録したエンジニアに求人案件を紹介する際は、専任のコーディネーターが社内基幹システムへアクセス。経験や希望などのマッチングに必要な内容、項目をデータベースで照合。その後、コーディネーター自身の経験・知識に基づき、スタッフ情報と求人情報のマッチングを行っていました。
――時間にするとどのくらいでしょうか。
照合する項目は1,000以上に及び、全体情報の把握には、一日当たり数時間を費やしていました。求人が増加する昨今の状況からも、1人のコーディネーターが求職者それぞれに合った求人を探す工数が増加。結果として、接点を持てるエンジニアには限りがありました。
――活用は3月に始まったばかりですが、現状はどんな感じでしょうか。
想定では約2時間の削減を見込んでいて、現状は少しずつ、削減が実現しています。
――AI導入ではなによりデータの質が重要になります。その辺りで苦労することはなかったのですか。
ノイズデータの除去は大変でしたが、最初から目標値を超える結果が出ました。登録エンジニア・求人にかかわる基幹システムのデータに加え、コーディネーターがこれまでにエクセル等に記録していた細かいデータの取り込みを行ったことで、想定以上の効果を出せたと考えています。
――データの量の豊富さもよかったのでしょうか。
過去10年分の求人情報、エンジニアの志向性、就業に至った成約事例など、60万件以上のデータを使い、ニューラルネットワークを使いマッチングモデルを構築しました。加えて、構築したマッチングモデルを新技術領域の知識と経験が豊富なマッチングノウハウを持ったコーディネーターの視点とすりあわせることで、適正なマッチングを再現。それによって、より多くのエンジニアへそれぞれの志向性に合った仕事を紹介することが可能になると考えています。
――人との協業で、より最適なマッチングを実現するわけですね。とはいえ、エンジニア職は技術の進化が早い。過去のノウハウもすぐに古くなってしまいます。
確かにAIやRPAなど新技術領域のニーズ拡大や多様化などにより、経験者が少ない新領域においては求められる技術を有していなくても求められる技術と親和性の高い技術を保有するエンジニアへ仕事を紹介するケースも増えています。そうなると過去の知識・経験ベースのマッチングだけでは、エンジニアのキャリアアップの観点ですべての選択肢をご紹介できていないケースが増加することも考えられます。
人の欠点を補完しながらAIとの協業で業務最適化を実現
――その辺りはどう対応していくのでしょうか。
すでに全コーディネーターがキャリア提案の際に同システムの使用を開始しています。マッチする仕事探しをAIがサポートすることで時間の削減ができるので、短縮できた時間でエンジニアの今後の展望やキャリアプランを詳細にヒアリング。それによって、これまで以上に志向性に合っている仕事を提案することが可能となり、就業機会の拡大に寄与すると考えています。データから逆算して、どうすれば新技術に対応できるのかもAIを活用することでみえてくるのではと期待しています。
――AIの導入で生産性の向上が期待される一方、“仕事が奪われる”とことにはなりませんか。
我々のAI活用スタンスは生産性向上というよりも価値創造に重きを置いています。創出した時間でいかにスタッフとの接点を増やし、その密度を濃くするかが主軸ですから、仕事の内容が変わる側面があるとしても取って代わられるということはないと考えています。
――AIをパートナーとして捉え、サービスの質を一層向上させていくということですね。
我々がシステムを使いこなしていくうちにAIが学習し、マッチング精度も上がっていきます。そこへさらに、コーディネーターのフィードバックとすり合わせながらチューニングしていく。そうした関係性によって、より良い提案が可能になっていくと考えています。
――現状の精度はどんなところでしょうか。
具体的な数字は出せませんが、導入前に行われたテストでは、AI搭載アプリケーションが抽出した求人情報を、支援率の高いコーディネーターが確認したところ、ご提案不可能と判断される求人情報はほぼ抽出されませんでした。
――最後に今後の展望をお聞かせください。
人が対応することでどうしても発生してしまう、経験差による抽出スキルのバラつきや記憶漏れ、思い込みなどによる機会損失などをAI活用によって解消することで、長期的に就業できる環境を提供。人の持つ可能性を最大限に生かせるようにしたいですね。さらに、データ分析に基づき、より多様な働き方の選択肢の提案を可能にし、一人でも多くのエンジニアにとって、自己実現につながる仕事選びができるよう、さまざまな側面から支援していければと考えています。