連載:逆説的AI論
Vol.2
小阪裕司(ワクワク系マーケティング)×境目研究家・安田佳生
20Mar

AI脅威論が叫ばれる一方で楽観論もある。しょせんは機械であり、単調作業や効率アップは得意でも“人間らしさ”に及ばないという自負がどこかにあるからだろう。境目研究家の安田佳生氏は今回、ワクワク系マーケティングで多くの商いを成功に導いている小阪氏に肉薄。商いとAI化の境い目に迫った。
AIの浸透がもたらす目に見えない影響
安田 なぜ経営者の意欲が減退してきてるんですか? 「何やっても一緒だよ」みたいな感じで、諦めてるんですかね。
小阪 じゃないかな。悲しいことですよ。だって自分で商いやっている人だからね 。会社員ならまだしもね 。
安田 ですよね。逆に意欲が高いのはどういう人ですか?
小阪 特に高いなと思うひとつは、意思を持って、自分で起業してる人たちですね。
安田 意思?
小阪 前回も言いましたが「自分が教えたいものや、伝えたいこと」があって起業した人たち。
安田 なるほど。
小阪 そういう人たちは、一見「謎めいた事業」をやってますね。
安田 謎めいた事業ですか?
小阪 従来の考え方に基づく価値提供だと、 AI とか IoT とか新しいテクノロジーが代替してしまうんですよね。
安田 これまでと同じ価値提供ではもうダメだと?
小阪 「自分たちが今までやってきたこと」に根本的な疑問を呈して、価値提供のやり方を変えなきゃダメ。
AI時代を生き抜くビジネスモデルの考え方
安田 具体的には、どういうところから取り組めばいいんですか?
小阪 たとえばウチの会員さんには、ビジネスモデルの再構築を問うています。
安田 再構築を問うている?
小阪 いま、ほとんどの業界でビジネスモデルの賞味期限切れが起こっているじゃないですか?
安田 はい。それは実感します。
小阪 だから構築し直さなきゃいけないんだけど、どう構築していいか皆さん分からない。
安田 でしょうね。「それが分かれば苦労しないよ」って感じじゃないですか。
小阪 そこで僕から「問いを立てる」わけです。
安田 問い?
小阪 例えばそのひとつとして、「今やっている商売で、一番お金をもらえているものを無料にするとしたら、どういうビジネスモデルがありえるか」という問いを投げかけるんです。
安田 それは興味深いですね。
小阪 そういう問いを、彼らは考えたことがないのでね。
安田 クリーニング屋だったら「衣類を洗うサービスを無料にする」ということですか?
小阪 そうそう。その上で「高収益なビジネスモデルにするには、どうしたらいいのか」ということを考えるわけです。
安田 なるほど。面白い。
小阪 例えば整体をやってる人が整体をタダにするとか。無料にしてなお高収益モデルが作り出されるとしたら、どんなことがありえるか。それを考えなさい、ということです。
安田 たとえば喫茶店ではコーヒーにお金を払いますけど、欲しいのは「ゆっくり本を読める時間や空間」かもしれないですよね。
小阪 そういうことなんですよ。「コーヒー代をゼロにしたら成り立たない」というのは、古い発想なんです。
安田 銀座の高級クラブでも酒代として請求されますけど、実際には女の子がチヤホヤしてくれるから行くわけですよね。でも、「チヤホヤ6万」とは書いていない。
小阪 それがバリュープロポジション、提供価値ですね。「チヤホヤ6万」だとお金を取りにくいから酒代にしてる。
安田 なるほど。お金をもらうポイントをズラすことによって、価値提供しているわけですね。
小阪 提供価値の本質は裏側に隠れたままで、表立っては何かの物体やサービスでお金を取っている。
安田 物体やサービスの提供そのものが価値だと思い込んでいると、これからのビジネスは成り立たないと。
テクノロジーの波が飲み込んだ従来型商売の存在価値
小阪 テクノロジーの波だと思うんですよね。ただ単に商品を提供するだけなら、自動発注でドローンが持ってきて構わないわけだから。
安田 そうですよね。そういう時代ですもんね。
小阪 たとえばウチの会員さんに爆裂業績の良い食品スーパーがあるんですけど。
安田 爆裂業績のスーパー?
小阪 はい。ものすごい田舎にあって、冬場は雪で閉ざされてしまうんですけど。
安田 他にお店がない、ということですか?
小阪 いえ、わざわざ遠くから、スノータイヤを履いて食品を買いに来るんですよ。
安田 何か特別な食品があるんですか?
小阪 いえ、普通のちっちゃな45坪の 店舗で、特別に変わったものを置いているわけでもないんです。
安田 それでもお客さんが来ると?
小阪 ものすごい人気なんですよ。
安田 どうしてなんですか?
小阪 食品とは違うものが買われている感じですね。
安田 食品ではないもの?
小阪 もちろん、レジに持っていくのは食品なんですよ。直接的には食品にお金を払ってる。
安田 でも買っているものは、単なる食品ではないと?
小阪 言語化するのが難しいんですけど、「ワクワクした暮らし」みたいなものを買ってますね。
安田 ワクワクした暮らし?
小阪 そこに来ると「食を通じてもっと人生が楽しめる」ってことが分かる。食を通じて人生が豊かになるってことを教わる場所なんだろうね。
安田 何を教えてるのか興味ありますね。
小阪 他にも「パスポートを発行しているカフェ」というのがあります。
安田 パスポート?
小阪 はい。入店するためには有料のパスポートを「住民登録して発行」してもらわなければいけないんです。
安田 何と、めんどくさい。
小阪 でしょ。でもなぜか、パスポートを発行してまでその店に行く人がどんどん増えているんですよ。
安田 変なカフェですね。
小阪 あるいはワクワク系のハンバーグ屋さん。その店でハンバーグ大使に任命されたら、ハンバーグ道を広げる活動をしなくちゃいけない。
安田 それでもお客さんが来ると?
小阪 どの店もめちゃくちゃ流行ってるんですよ。
『儲かる仕事は言語化できない』
安田 なんとなく、聞いてて思ったんですけど。
小阪 はい。
安田 そこにお客さんが来る理由は「これこれこうなんですよ」と説明できないですよね?
小阪 言語化するのがとても難しいんですよ。
安田 そこが共通する特徴なんじゃないですか?
小阪 まさにその通りなんですよ。その業種は何なんだと言われても説明できない。
安田 説明できないから、真似することもできない。
小阪 みんな「流行る理由」を端的に聞きたがるんですよね。でもそれで真似できるのは表面的なものだけ。
安田 表面だけ真似しても、同じことはできないと。
小阪 その通りです。大事なのはその根っこにあるものなので。
安田 根っこは見えませんもんね。
小阪 どこに根っこがあるかって言うと、お客さんのデータの方じゃないんですよ。
安田 なるほど。データは見えるし、言語化しやすいですもんね。
小阪 はい。データではなく「自分の頭の中」に根っこがある。これは圧倒的な違いだと思います。
安田 自分のこだわりが、魅力の源泉そのものということですね。
小阪 そこが人を魅了する源泉なんですけど、大事なポイントは「お客さんが来るたびにその魅力が更新されていく」こと。
安田 まさに「商い」という感じですね。
小阪 そうなんですよ。これが本来の商い。
安田 物やサービスを提供するだけの経営者は、商いをやっていないと。
小阪 世の中にものがなくて困っていた時代には、それですごく喜ばれたわけです。つまり、足りない物資を供給するというのが商いだった。
安田 今は違う?
小阪 そのビジネスモデルはもう賞味期限切れなんですよ。単なる物資の供給はテクノロジーによって代替えされてしまいました。
全4連載「小阪裕司(ワクワク系マーケティング)×境目研究家・安田佳生」
Vol.1 AI楽観論に潜む意外な盲点
Vol.2 AIに負けない商売づくりの成功法則
Vol.3 商売のAI化の先にある同質化という副作用
Vol.4 AI時代に埋もれない経営と埋もれる経営の境目
PROFILE

ワクワク系マーケティング
小阪裕司(こさかゆうじ)
山口大学人文学部卒業(美学専攻)。社会人選抜の飛び級にて、工学院大学大学院博士後期課程入学、2011年3月博士(情報学)取得。作家、コラムニスト、講演・セミナー講師、企業サポートの会主宰、行政とのジョイントプログラム、学術研究、ラジオ番組パーソナリティなどの活動を通じ、これからのビジネススタイルとその具体的実践法を語り続ける。人の「感性」と「行動」を軸にしたビジネスマネジメント理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県から千数百社の企業が参加している。著書は『「お店」は変えずに「悦び」を変えろ!』(フォレスト出版)はじめ、新書・文庫化・海外出版含み計39冊。
PROFILE

境目研究家
安田佳生(やすだよしお)
1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。