連載:逆説的AI論
Vol.5
藤井薫(リクナビNEXT編集長)×境目研究家・安田佳生
27Feb

境目研究家・安田氏とリクナビNEXT編集長の藤井薫氏がAI化をテーマに採用の未来を探る特別対談は5回目に突入。マッチングのAI化で採用の最適化が現実的になる中、ヒトはどうすればその環境を最大限に活用できるのか。その解には、進化の本質が凝縮されていたーー。
仕事と趣味の境目にある働くの本質
安田 ちょっと話は逸れますが。
藤井 はい、どうぞ。
安田 仕事と趣味の境目についてお聞きしたいんですけど。
藤井 仕事と趣味ですか?
安田 大金を稼ぐユーチューバーが話題になってますよね。
藤井 はい。
安田 ユーチューバー以外にも、いろんな場所で変化が起こってるんですよ。
藤井 どういう変化でしょうか?
安田 たとえばアートで生計を立てるには「展覧会での入賞」や「権威ある人の推薦」が不可欠でした。でも今は熱心なフォロワーが1000人もいれば食べていけます。
藤井 確かにそうですね。
安田 一方で「昨日まで食べられた仕事」が「今日は食べられない仕事」に変わってるかもしれない。
藤井 それもまた確かですね。
安田 お金になるのが仕事で、お金にならないのが趣味。それがこれまでの定義じゃないですか?
藤井 はい。
安田 そこに逆転現象が起きています。仕事なのに稼げない、趣味なのに稼げてしまう。こうなってくると「仕事と趣味の境目」はどこにあると思いますか。
サービス経済化で溶けてなくなっていく仕事と趣味の境界線
藤井 これは境目自体が溶けてくると思います。
安田 境目が溶けてくる?
藤井 はい。というのは今、あらゆる業種で「サービス経済化」が進んでいます。
安田 サービス業が増えているということですか?
藤井 はい。経済社会が高度化、成熟化するに従い、産業構造におけるサービス業の比率が高くなってゆくことが「サービス経済化」です。現在はGDPの7割をサービス産業が占めています。残り3割がメーカーと建設業です。
安田 7割ですか。
藤井 そうです。さらに自動車業界も「MaaS(モビリティアズアサービス)」といわれ、農業も6次産業化といわれるように「サービス経済化」が進んでいます。
安田 全ての業種がサービス業になっていくと?
藤井 メーカーの場合だと「どうやって品質が良く・早く・安いモノを作るか」は、供給側が知っているわけですが、サービス業の場合は「どうやって心地良く・タイミング良く・面倒でない経験を生み出すか」は、使っている需要側の方が知っている。
安田 発想が変わると。
藤井 つまり「ゲームをつくる人」じゃなく「ゲームを使っている人」に価値が出てくる。だから「サービス経済化」が進んでいくと、仕事と趣味の境目は自ずとなくなっていく。
安田 おお!すごく論理的な説明ですね。
藤井 学・遊・働ってそもそも混ざっているんですよ。
安田 なるほど。そもそもが、混ざっているものだと。
藤井 今は「小学生は遊ぶ」「中高生は学ぶ」「社会人は働く」と直線的なステージ論として考えられています。
安田 確かに。考えてみたら強引な線引きですよね。小学生だって学ぶし、社会人だって遊ぶし。
現代版・百姓がAI時代にフィットする生き方
藤井 江戸時代なんかは学・遊・働まぜこぜの世界で、百姓はまさにそれを実践していました。
安田 そうなんですか!
藤井 草履を編んで、田んぼを耕して、俳句を書いて、火の見櫓を造って、青年団で火の用心をして…。まさに百の顔、百の姓を発露しながら遊び、学びながら働くのが百姓の豊かな生き方でした。近年多くの方が実践される、複業・パラレルキャリアも、現代版の百姓とも言えます。学・遊・働を同時平行する生き方というのは、実は古くて新しいんです。
安田 古くて新しい、なるほど!
藤井 そのことに「企業も少しずつ気づき始めている」という気がしています。
安田 とはいえ、世の多くの人は「楽しいことで稼ぐなんて戯言だ。仕事は辛いものだ」と思い込んでいる節があります。
藤井 私はアントレで独立開業支援に8年関わって、まさに地獄をみてきた方も知っています。
安田 楽しいだけでは、やっていけないということですね。
藤井 そうではありません。儲けるという字は「信じるられる者」と書きます。稼げるかどうか分からないことに没頭した時間が、5年10年後に繋がって行くんです。すぐにはキャッシュにならなくても、いつかどこかで報われる。
安田 確かにそういう繋がりって、私も実感としてあります。
藤井 プランド・ハップンスタンス・セオリーといって、スタンフォード大学のクランボルツ教授によって提唱された、計画的に偶然を取り込もうという理論があります。
安田 計画的偶然ですか?
藤井 はい。個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される。逆に、変化の激しい時代には計画性はかえってリスクになると。職業でいえば、ひとつに固執することは、それ以外の可能性を捨てることにもなります。
安田 なるほど。
藤井 某大企業のように同じものだけ、社内だけ、同じ上司だけで経営していたら、確実につぶれていきます。
安田 「そこでしか通用しない人材」になるのも大きなリスクですよね?
藤井 はい。違うところに出たほうがオプションが出来る。あえて逸脱する。安全ではないが、いつかそれが何かのカタチで還ってくる。
安田 昨今の複業推奨も、その辺りを意識している側面はあるでしょうね。
個と個が直接つながるようになり会社も溶ける
藤井 「弱い紐帯の強み」”The strength of weak ties”といって弱い糸をどんどん創っていけば、中長期には明らかに良くなっていくという考えがあります。それは実際に証明もされています。
安田 細い糸同士がどこかで絡まって、太くなっていくんでしょうね。
藤井 こういう考えは、20代の方がよく理解しているかもしれません。NPOとかいろんなネットワークがでてきていますよね。
安田 たとえばメルカリは「個と個を繋ぐ」ことによって、不要なものを必要な人に移動させてますよね?
藤井 はい。
安田 仕事でも「個と個が直接つながる」ようになれば、もはや会社は不要になるかもしれません。
藤井 会社も溶けていくでしょうね。
安田 「好きや得意をベースにした仕事」が人間の数だけあって、全てのヒトが自分だけの仕事と巡り合う。そうなれば世の中は相当ハッピーになると思うんです。
藤井 ジェフ・ベゾスが15年ぐらい前に、今でいうクラウドソーシングサイトをつくったんです。確かその中で「眠りをサポートして500円」という“仕事”があった。眠れない人に電話でヒツジを数えるんです。
安田 面白い仕事ですね。
藤井 実はその仕事をした人は、病院で寝たきりで自力で動けない状態だったのですが、電話はできますし、声もよかった。「その人にしかない能力」と「それを必要とする人」がつながって仕事が成立したワケです。
全6連載「藤井薫(リクナビNEXT編集長)×境目研究家・安田佳生」
Vol.1 採用とAI化の境目には何があるのか
Vol.2 変化する採用戦略と採用AI化推進の必然
Vol.3 仕事でなく人にマッチングする究極のカタチとは
Vol.4 AI化が推進するマッチング2.0で変わる働くことの意味
Vol.5 AIマッチング時代にヒトはなにをするべきか
Vol.6 非AI領域とAI化の境目にある働くの未来形とは
PROFILE

リクナビNEXT編集長
藤井薫(ふじいかおる)
1988年慶応大学理工学部を卒業後、リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社。B-ing、TECH B-ing、Digital B-ing(現リクナビNEXT)、Works、Tech総研の編集、商品企画を担当。TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長・ゼネラルマネジヤーを歴任。2007年より、リクルートグループの組織固有智の共有・創発を推進するリクルート経営コンピタンス研究所コンピタンスマネジメント推進部及グループ広報室に携わる。2014年よりリクルートワークス研究所Works編集兼務。主な開発講座に『ソーシャル時代の脱コンテンツ・プロデュース』『情報氾濫時代の意思決定の行動心理学』などがある。
PROFILE

境目研究家
安田佳生(やすだよしお)
1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。