仕事でなく人にマッチングする究極の形

AI化進む中で変化する採用はどこへ向かうのか

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連載:逆説的AI論

Vol.3

藤井薫(リクナビNEXT編集長)×境目研究家・安田佳生

仕事でなく人にマッチングする究極のカタチとは

境目研究家・安田氏とリクナビNEXT編集長の藤井薫氏がAI化をテーマに採用の未来を探る特別対談第3弾。今回は、現状の採用の課題を追求しながら、より働く人が輝ける次世代の採用のカタチをあぶりだしていく。

これまでの人材マッチングが内包する課題とは

安田 今のような採用ビジネスが行き詰るのは、もはや必然という感じがしています。
藤井 どういう部分に、そう感じるのですか?

安田 仕事と人のミスマッチをなくすことを、本気で考えていないから。

藤井 確かに、そういう部分はありますね。

安田 例えば20人くらいの人が無人島に流れ着いたとします。

藤井 はい。

安田 そういう時には一人ひとりが、自分の得意なことで役に立とうとすると思うんですよ。「自分は力仕事が得意」「料理が得意」「食べられる植物に詳しい」という具合に。

藤井氏にグイグイ突っ込む安田氏藤井 なるほど。

安田 ところが現実社会では、得意より先に仕事があります。

藤井 どういう意味でしょう?

安田 まず事業があり、それを運営するために仕事が作られ、それぞれの仕事に人がはめ込まれていく。

藤井 多くの人は、提示された仕事の中から、得意なものを選んでいるのでは?

安田 得意かどうかというよりも、条件で選んでいますよね?勤務時間、給料、休み、という条件。

藤井 その条件には、仕事内容もありますよね。

安田 もちろんあります。でも人に合わせて仕事が作られているわけではありません。条件がよく、仕事内容が嫌じゃなければ、受け入れる。それがこれまでの就職のイメージです。

藤井 まず人ありきではなく、まず仕事ありきだと?

安田 私にはそう見えます。仕事が先にあることが、ミスマッチの要因ではないかと。

AI時代の採用の理想のカタチをめぐり激論する安田氏(左)と藤井氏

ジョブベースのレンガ型に対する日本型の石垣型

藤井 組織に対する考え方でいうと、欧米がジョブベースの「レンガ型」であるのに対し、日本はそれぞれのカタチが違う「人ありきの石垣型」だと言われます。

安田 レンガ型と石垣型ですか。

藤井 レンガ型のメリットは責任の所在がハッキリしていて、意思決定が明確なこと。石垣型は皆がフォローしあいながら仕事を全うする点。

安田 なるほど。

藤井 デメリットは、レンガ型は担当者がいないような境目の仕事は「ジョブ・ディスクリプションに書いてない」のでやらない。一方の石垣型は、上司が誰か分からないくらい沢山いるので責任の所在が分からない。

安田 確かに。日本の大企業は、不祥事が起きても責任の所在が明確じゃないですもんね。

藤井 世界のHR市場においては、両者のハイブリッド型である「個々の意思決定をある程度明確にしながら、家族主義的な部分も取り入れるティール型」へとシフトしつつあると思います。

安田 日本のHR市場ではどうなんですか?

藤井 残念ながら日本のHR市場は、そこに追いついていません。そこが、ご指摘の要因の一つといえるかもしれません。

安田 仕事ありきだと「労働市場には出ていないような、得意なことや好きなこと」に起因する仕事が押しやられてしまう。その結果、採用で不幸が生まれる。

藤井 仕事ありきで、ジョブ型に適用しようとし過ぎると、そういうリスクはあるでしょうね。

安田 そうですよね。

採用の硬直性を緩和する“橋本聖子理論”とは

藤井 その時にひとつ光だと思っているのは、橋本聖子理論なんですよ。

橋本聖子理論を解説する藤井氏安田 橋本聖子理論?

藤井 はい。その人の能力を全体としてではなく、腿の筋肉、気持ち、あたらしい事にチャレンジするチカラなど、パーツごとにフォーカスする。

安田 パーツごとに、ですか?

藤井 はい。橋本さんの各パーツに着目するんです。するとパーツを活かして競輪でもうまく開花することができる。スケートの能力だけにフォーカスしていたら競輪での活躍はなかったでしょう。

安田 普通ならひとつの競技に集中して、能力を上げようと考えるものです。

藤井 そうですよね。でもそれは、仕事と人のマッチングで言えば「単にジョブに人を当てはめようとするやり方」です。

安田 それでは能力は活かしきれないと?

藤井 本当はもっと「いろいろな場所でも開花する可能性のあるはずの能力」に目を向けず、無理やり一つの仕事に押し込んでしまう。これってとてももったいない。

現状の人材マッチングの課題を指摘する安田氏安田 現実には、ほとんどの職場がそうなっていますよね。

藤井 ヒトを労働力の部品として機械のように扱うのではなく、人間が持っているいろんな可能性や能力を、後転発展性も含めてきめ細かく見つめ期待してゆく。そうすると思わぬところでその能力が活用される。ここに大きな可能性があると思っています。

安田 本来持っている「スキルや能力」が仕事に活かせるのは極めて健全ですし、とても幸せなことだと思います。

異業種転職を困難にする“みえない壁”

藤井 これに当てはまりそうな事例を紹介しますと「学習塾から携帯ショップの店長へ転職し、大成功した」人がいます。

安田 学習塾から携帯ショップ店長ですか。

藤井 そうです。「顧客が学生であること」「親御さん向けのコミュニケーション」「多様な人材のマネージメント」という共通項目があるので、成功はある意味必然なのです。

安田 なるほど。

藤井 ところが、学習塾で10年働いた人が職探しで検索をすると<教育業界/講師/教師/インストラクター>という枠しかなく、そこにヒトを押し込むことになる。

安田 そうなるでしょうね。

藤井 でも、業界/職種に押し込むのはもはや古いメトリクスです。その人が持っている能力から出会いの可能性を探っていかないと、マッチングはうまくいかない。

リクルートが挑む次なる採用のカタチ

安田 リクルートはそこに取り組んでいくんですか?

藤井氏が明かすリクルートが目指す採用の新しい形藤井 今どきの言葉で言うと、すべての物がインターネットにつながるIoT(インターネット オブ シングス)のTの所をHやAに変えた、IoH、IoA(インターネット オブ ヒューマン、インターネット オブ アビリティ)に未来がある。その人の能力がインターネットに接続されれば、24時間、世界中ぬチャンスが広がってゆく。そういう方法にどこまで迫れるかが、我々に問われていると思います。

安田 でも実際、仕事を探す際には「リクナビや職案に並んでいる情報」から条件で選ぶ。つまり、自分から仕事にはまり込んで行っています。

藤井 現状はそうなっていますね。

安田 決められた業務を、決まった時間内にこなす。それが「まともな社会人である」と日本では教育されて来ましたから。

藤井 そういう側面はあるでしょうね。

安田 加えて、リクルート社の就職支援の仕組みも、そうしたことに影響与えている側面はあると思うんです。その仕組みを「根本から変えていこう」ということですか?

藤井 私は人の可能性を信じるという事でリクルートに入社しました。まだまだ理想のサービスとのギャップはありますが、そこにどこまで迫れるかは自分次第だと思っています。実は『リクナビHR TECHスカウト』は、その新しいチャレンジです。これまで職種名で縛られてきたマッチングの単位を、求職者のスキルやこれまでの経歴などの広範できめ細かい単位で見つめて、求職者と求人企業の新たな出会いをAIが支援する、人が持っている可能性を拓く一つの方法だと思っています。

全6連載「藤井薫(リクナビNEXT編集長)×境目研究家・安田佳生」
Vol.1 採用とAI化の境目には何があるのか
Vol.2 変化する採用戦略と採用AI化推進の必然
Vol.3 仕事でなく人にマッチングする究極のカタチとは
Vol.4 AI化が推進するマッチング2.0で変わる働くことの意味
Vol.5 AIマッチング時代にヒトはなにをするべきか
Vol.6 非AI領域とAI化の境目にある働くの未来形とは

PROFILE

リクナビNEXT編集長

藤井薫(ふじいかおる)

1988年慶応大学理工学部を卒業後、リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社。B-ing、TECH B-ing、Digital B-ing(現リクナビNEXT)、Works、Tech総研の編集、商品企画を担当。TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長・ゼネラルマネジヤーを歴任。2007年より、リクルートグループの組織固有智の共有・創発を推進するリクルート経営コンピタンス研究所コンピタンスマネジメント推進部及グループ広報室に携わる。2014年よりリクルートワークス研究所Works編集兼務。主な開発講座に『ソーシャル時代の脱コンテンツ・プロデュース』『情報氾濫時代の意思決定の行動心理学』などがある。

PROFILE

安田佳生

境目研究家

安田佳生(やすだよしお)

1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。

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