地銀が取り組むデジタル化/AI化の展望

AI化/デジタル化で銀行像の変革に挑む

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AI化で業務自動化の効率化効果が最大8倍向上

AI化で業務自動化の効率化効果が最大8倍向上

愛媛の地銀、伊予銀行がデジタル化戦略を加速させている。地銀として、「生産性の向上」と「地域に対する責任」を両立させながら、長期スパンでのデジタル・トランスフォーメンション(DX)を推進。人口減少や来店数減少という状況に危機感を充満させながら、「まずやってみる」と従来の銀行のスタンスにとらわれない“見切り発車”で、次世代の銀行像の確立に不退転の覚悟で挑んでいる。

地銀が挑むデジタル・トランスフォーメーション

「10年先も必要とされる銀行を目指し、構造改革から10年かけて取り組んでいる」。伊予銀行でデジタル戦略を統括する竹内哲夫CIOが決死の覚悟を明かす。デジタル・ディスラプションの波が一気に押し寄せる金融業界。なかでも地銀は、人口減少の影響ももろに受け、苦境に立たされている。それだけに同行も、いわゆる銀行の体質にとらわれない行動先行型で変革に向き合っている。

自社でプロジェクトを発進させるのと並行し、「当行のデジタル戦略と通じるところがあった」と戦略パートナーとしてアクセンチュアとタッグを結成。「人間中心のDHDバンク」の確立を目指す。DHDはデジタル・ヒューマン・デジタル。つまり、人には人、デジタルにはデジタル、と適性にあわせて役割を明確にし、その共生を追求。利便性向上だけに留まらない超ハイブリッドで、いわゆるデジタル化とは一線を画す。

具体的にはUI&タッチポイントのデジタル化による効率化。待ち時間が長いという顧客の不満をデジタルツールで解消。併せてここでデータを収集。蓄積し、AIで解析。より深く、質の高いコンサルティングにつなげる。人が、顧客に合わせた提案をフレキシブルに行うことで高い付加価値としてリターン。最後は引き継いだデータをもとに、新たな提案へつなげるためにデジタルを活用する――。この3つのサイクルをデジタル→人→デジタルの順で回すことで業務の最大化を図る。

一連の流れの中で重要になるのが、顧客とのファーストコンタクトとなるUI&タッチポイントのフェーズだ。同行はここにAI連動のチャットボット「Chat-Co-Robot」をプラットフォームとして開発。対話形式での入力が可能なプラットフォームであり、ITリテラシーの低い高齢者でも使いやすく、デジタル活用の障壁を最小限に抑えている。

行員はここで得た情報のチェックおよびコミュニケーションに同プラットフォームを活用。対面が基本の従来型に比べ、大幅な業務効率化を実現する。併せて蓄積したデータをもとにAIが学習することでどんどんスマートになり、あらゆる質の向上にもつながる。アクセンチュアの試算では、RPAによる効率化効果を10~20%とすると、同プラットフォームでは70~80%と最大で8倍の効率化効果が見込めるという。

目指すのはAIとの共生を軸にした新たな銀行像の確立

同行では2020年度までに同プラットフォームを搭載した店舗用タブレット「AGENT」を全店で導入する予定で、対象業務も順次拡大。口座の開設から始まり、最終的には営業支援までを目指し、“DHDバンク”としての基盤確立を目指す。

同行は同タブレット導入と並行し、店舗改革にも着手。カウンター業務の大幅な効率化により、対面の事務手続き型からラウンジスタイルの個対応型へのシフトを図るなどで、新たな銀行像の確立を進める。さらに将来的にはアプリ化も構想し、場所にとらわれない展開を進め、地銀の宿命といえる物理的障壁という呪縛脱却も見据える。

◇ポイント

店舗タブレットによる口座開設はわずか6分で完結する。従来は30分以上はかかっていたことを考えれば、劇的な進化だ。なにより、デジタル化へ向け必須のデーター収集との一石二鳥であり、模範的なDXの取り組みといえそうだ。銀行では、受けるサービス内容の割に待ち時間が長いことに不満を抱える顧客も多いが、それが解消されるだけでなく、対応時間の短縮で会社員が昼休みに足を運ぶことが可能になるなど、来店者減の特効薬にもなり得るだろう。人との共生でデジタル化を進めるのは当然の判断で、いかにデジタル化/AI化で浮いた時間を有効活用するかが、“融合”のキモとなる。とはいえ、窓口業務が事実上なくなるので、仕事が奪われる側面はある。その辺りは、業務見直しや部内シフトを的確に行うことなどで調整する必要があるだろう。

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