連載:Q&AI
Vol.8
AIベンチャー社長がズバリ指南。失敗しないAI活用の勘どころ
23Oct

AIベンチャー社長の中村氏が、AIビジネスを検討するビジネスパーソンの疑問や質問に回答するQ&A企画。今回はAI導入を検討する企業の代表から寄せられた声にズバリ回答いたします。
Q:チャットボットを導入し、数ヶ月で使わなくなってしまう企業があるといいます。一方で毎月オペレーション工数や人件費削減ができている企業もあると聞きますが、どのような違いがあるのでしょうか?
「弊社でもAI導入を検討しています。ただ聞くところによると導入したが、もう使っていないというところと、導入し工数削減や人件費削減に貢献している企業もあると聞きました。なにが違うのでしょうか?」
A:ボットの特長を踏まえ、使う側の心理をしっかり見極め、フロー化しているかどうか
大手企業はもちろん、数百名の従業員規模でもある中小企業においても、工数削減、人件費削減でAIを導入する企業が増えています。一方で導入したが定着せず、運用を打ち切った企業もあると耳にするのも事実。
導入を検討しているが、本当にうまくいくのか……。
お客様は使ってくれるか……。
そういった状況をみると、不安や疑問をお持ちになるのは当然だと思います。
そこで今回は、弊社ボットを導入した事例と共に、成功パターンをご紹介いたします。
社内向けに導入するなら
まず社内用でしたら、明確な用途に絞るということが重要です。
社外で勤務する社員の勤務状況を管理するためにボットを導入した企業の例をご紹介します。
「個人の残業時間や売上を確認できるようなツールを導入したい」「ただ社員は自身の勤務状況を出先で確認する必要がある」といった開発のご依頼でした。ログインしていれば社員番号と連動して目的の情報を提供するといった明確な用途でしたので、普段使っているスマートフォンのアプリのようなインターフェースで納品。
逆にこのボットが「何でも聞いてください」「困ったら質問してください」という形にしてしまうと、用途が広くなりすぎてしまい、社員が思う「AIは何でもできる」というような過剰な期待に反することになりかねません。AIが人間と全く同じレベルで応答することは、ほぼ不可能ですので、解決してくれないボットとなってしまい、思わしくない方向へ転がり落ちてしまいます。社内用にボットを導入する際は、用途を明確に絞ること、そしてAIへのイメージをしっかりコントロールすることが重要です。
社外向けに導入するなら
社外向けの問題解決にチャットボットを導入……とお考えでしたら、あまりお勧めしません。なぜなら、チャットボットは問題解決に向いていないからです。どちらかというとボットは問題解決するというよりも、ユーザーから話しかけられやすいという特長があります。その特長をうまく利用した例として、ネット通販を運営しているホームページのFAQへボットを導入した事例をご紹介させていただきます。
導入して、2年以上になる企業ですが、1日150件以上利用されているボットがあります。ボットの設置場所についても、それほど目立つところにあるわけではありません。
ユーザーが問題解決をしたいという心理には、いくつかパターンがあり、その心理をうまくくみ取っているという事案です。
◆問題解決をしたいユーザーの心理
【問題の深刻度…高】電話での問い合わせ
解決したい問題が深刻であるというときに、最終手段で利用する電話。
本当は電話で問い合わせなんてしたくない。でも今すぐに解決したい。
ユーザーは怒っていることが大半。
【問題の深刻度…中】メールでの問い合わせ
問題の深刻度はそれほど高くない、しかし解決したいことがあるといったときにメールでの問い合わせになる。
問題を解決したいだけなのに、「ご担当者様」「お世話になっています」「よろしくお願いいたします」など、面倒な定型文が必要。電話ほどの怒りはないが、ユーザーの不安度は高め。
【問題の深刻度…低】有人チャットへの問い合わせ
比較的、問題の深刻度が低い場合は、有人チャットへ問い合わせするというケースもある。
しかしユーザー心理としては、向こうに人間がいるので忍びないという気持ちも……。ユーザーの怒りや不安は低め。
【問題の深刻度…無】FAQボット(自動ソリューション)への問い合わせ
分からないことがあるときに、人間ではないので気軽に話しかけやすい。
ユーザーは怒りや不安も無いプレーンな状態。
問題の深刻度ごとに問い合わせ手段をみていくと、ユーザーの心理状態がどう変化しているのか分かりますよね。
ボットに話しかけて問題を解決できなくても、解決できないユーザーに「有人チャットへつなぎますか?」と、次のステップへ割り振っていくこともできます。
つまり、FAQボットがあるということは、かなり手前のところで、ユーザーの問題を深刻化させないよう、手を打てる……ガンの早期発見と近いイメージですね。
そのほかにも、通販サイトは非計画購入に弱いといわれています。実店舗では、「かわいい、買っちゃった」「これ買っちゃおうかな」というのが多いのですが、通販サイトの場合は買うものが決まっている計画購入がほとんど。衝動買いには至りません。
これまでのWEBサイトは、ユーザーがどういったものが欲しいかを検証する際、アクセス解析で分析をして「この人はこのような商品を求めているのではないか……」という推定くらいでした。しかし、話しかけやすいボットを導入することで、ユーザーへ何が欲しいのか、ヒアリングすることができるようになります。ボットから「いい香りの商品は好きですか?」「何色がお好みですか?」といった質問にも、ユーザーは気軽に答えてくれますので、好みに合ったおすすめの商品を画像や動画など、状況に応じて表示させることができるというのが、ボットの強みですね。
このようにボットの特長をうまく踏まえて、フローを構築するというのが一番重要なポイントであり、効果を実感されている企業。
但し、一般的に買い切り型のツールとしてボットを提供している業者については、フローまでは考えてくれないところがほとんどです。ツールを導入する際は、業者選びも重要になってきますので、慎重に選ぶようにしましょう。
PROFILE

株式会社サイシード
中村陽二(なかむらようじ)
東京大学工学部、同大学院工学系研究科修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーでM&A、成長戦略の構築に携わった後、株式会社サイシード創業。100社以上の業務効率化、ツール導入に携わった実績を持つ。HP:https://www.sciseed.jp/