連載:AI脳の創り方
Vol.13
ビジネスパーソンのための戦略的AI活用のキモ
3Oct

前回の記事で「コンタクトセンターの通話履歴からVOC(Voice of Customer:顧客の声)の分析をするには、現状の音声認識技術はまだまだ不十分」というお話をいたしました。今回はその続きとして、AIでのVOC分析の限界、というか現状での課題について書いてみたいと思います。
課題は「話し言葉と書き言葉の違い」
コンタクトセンター業務でオペレーターが従来残してきた履歴は「書き言葉」で書かれることがほとんどでしたが、通話履歴中の会話は当然「話し言葉」になります。テキストマイニング処理は書き言葉をベースに考えられている手法も多く、実は話し言葉の分析はあまり得意ではありません。特に音声認識により得られたテキストデータというのは誤認識された文字列や、途中で分断された文章などもあり、テキストデータとしては非常に精度の低いデータです。
また、当然ですが発話単位で分析をしてもあまり意味はなく、本来はある程度同じトピックを話している会話のまとまりを対象に分析をしたいのですが、そうした会話トピックの切れ目を判断することは非常に難しいです。
そのため、意味のある分析を行うためには泥臭く会話内容を読み解きながらほぼ手作業で分析という名の読み解き作業を行うことになるのが現実です。つまり、音声認識によりテキスト化されたVOCを大量に集めれば集めるほど、その分析が困難になってしまうということが起きてしまうのです。
ここで述べたように、音声認識技術の進歩により、ある程度VOCデータを自動的に収集するようなシステムの目途はついてきたものの、そのデータを活用して何らかの成果を出すための分析技術にはまだまだ課題の方が多いというのが実情です。しかし、ここに挙げた課題はあくまで技術的な問題であり今後の音声認識技術、自然言語処理技術の進歩で解決されていく(とはいえ少なくとも数年はかかるとも思っていますが)のだと個人的には思っています。
VOC活用でAIを進化させる前に進めるべきこと
そうした処理技術の課題以上に、「VOC活用のために分析をお願いします」と言われたときにもっと大きな問題になると考えられるのは、”どうやって必要なデータを収集するのか”ということです。
データ分析でもよく陥る罠ですが、分析目的をある程度考慮しておかないと本当に必要なデータというのは蓄積することはできません。VOCについても同様で、コンタクトセンターに入ってくる電話は何も一つ一つ全く異なる内容というわけではなく、むしろその大半が同じような内容のものになることが珍しくありません。例えば手続き系の業務であれば、電話をしてきたお客様が望むのはとにかくスムーズに手早く手続きを終わらせることでしょう。そうすると、当然ですが会話内容もどちらかというと事前に決められたスクリプトに沿ったものになりがちです。そこで得られたVOCデータをよくよく読めば、その中からオペレーターが話す順番を工夫している様子や、お客様が説明についていけず困る箇所などを見つけることができるかもしれません。しかし、サービス改善に繋がるような要望や困りごとが話されていることは稀でしょう。
今後AIの進歩によってより効率的にVOCの収集から分析、顧客理解への活用ができるようになってくるでしょう。しかし、その時に必要なVOCを収集するための手段、すなわち、必要のないデータでなく真に必要なデータを効果的に収集する手段は忘れられがちです。AIがどれだけ進歩してもデータのないところからは何の答えも返せません。必要なお客様の声をどのように聞くのか。VOC活用のためにはAIの進歩を待つ前にやらなければならないことは多いのではないでしょうか。
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PROFILE

株式会社 TMJ 営業統括本部 マーケティング推進本部 サービス推進部 Data Science推進室
小泉 敬寛(こいずみ たかひろ)
2008年より京都大学 工学研究科 助教としてウェアラブルメディア、コミュニケーションに関する研究を行う。2016年より株式会社TMJに入社。現職では統計処理や機械学習などの新技術に関する調査、研究・開発を担当。AIをはじめとする新規技術を使ったサービスやソリューションの提案やコンサルティングに取り組んでいる。