連載:Q&AI
Vol.7
AIベンチャー社長がズバリ指南。失敗しないAI活用の勘どころ
12Sep

AIベンチャー社長の中村氏が、AIビジネスを検討するビジネスパーソンの疑問や質問に回答するQ&A企画。今回はEC事業を展開する企業の担当者から寄せられた声にズバリ回答いたします。
Q:経営者からEC事業のコスト削減のため、AI導入を検討するように命じられた。何から手をつければ良いのでしょうか?
「通販サイト事業にて運営担当をしています。経営者からコスト削減のため、AI導入を検討するように命じられました。知見やノウハウが無いため、何から手をつければ良いか分からない……。何から始めるべきでしょうか?」
A:課題の洗い出しを行い、専門知識を持った専門家に相談するのが有効
私たちの生活の中に普及しはじめているAI。すぐに導入できるパッケージ化されたAIサービスも出始めています。ただ、AIを導入すれば、課題が解決すると思われがちですが、実はそうでもないのです。
AI導入の前提として意識してほしいことは、導入したから成功するとは限らないということ。成功させるためには、真剣に取り組まないと、どんな道具も買っただけになります。
単純な話ですが、モテたいためにどうするか……例えば、オシャレな服を買いました。これでモテるわけではありませんよね。
同じようにBtoBでも何か買ったら、経営がうまくいくということはないのです。
ただ「道具を導入しました」という話なので、それを使いこなす意志や使いこなせる担当者が、「どう使っていくか」ということを真剣に考えて取り組まないと、うまくいきません。
まずは、AIを導入する明確な目的(解決したい問題)を決めていくところから始めましょう。
例えば、「顧客の対応に時間がかかるので、AIを導入して解決したい」など、何を解決したいのかを明確にすること。
これまでAI技術になじみのないところであれば、自社で課題の洗い出しはできるものの、専門知識や導入経験もないため、具体的にAI技術でどう課題を解決していくかというところで壁にぶち当たってしまい、最適な結果はなかなか得られないものです。
AI導入を検討するなら、まずは専門知識をもったベンダーに相談するのが有効です。
とはいえ、ベンダー選びも悩ましい問題です。
「エンジンを売ります。あとは頑張ってください。何かあれば、他のコンサルにでも助けてもらってください。」という会社はあまりよくないベンダー。
それよりも「成功するまでお付き合いします。」というベンダーと一緒にやった方が成功確率は高いのではないかと思います。
そのほかにも、データが揃っていないとツールを導入できませんというところも、あまりおすすめできません。どの企業もAIを導入するタイミングで、データが揃っているというところは、ほとんどありませんので、データがないからと諦めないでください。
これはAI業界でいう「コールドスタート問題」と言われており、「鶏が先か、卵が先か」と同じで「データがあったら、このツールは使えます。でもデータが無いので稼働しません。稼働できないのでデータが貯まりません。」と、循環的な議論になってしまいます。
「少ないデータでもある程度使えます。」というものから始めて、徐々にデータを貯めていき、パフォーマンスを高めていくという方向性で運用していくことが重要です。
またベンダーを選んでAIを導入することになった場合に、よくやるのがPoC(Proof of Concept)です。PoCとは実証実験のことを指し、実際の運用を開始する前に、試しにやってみましょうというものです。
実証実験ではあるものの、ある程度KPIを定めておいた方が、なんとなくの肌感で判断してしまったということになりかねませんし、経済的な価値がどのくらいになるのかを推測することができます。
例えば、ツールを通して何件問い合わせが発生しているか、解決率は何パーセントだったか、とKPIを絞ることが重要。なぜなら、何かしらのKPIを定めておくことで、それが一定の水準以上だったら成功、以下だったら失敗と考えることができるからです。
ただ、PoCの場合も「パッケージを導入しました」「放っておきました」「うまくいきませんでした」「じゃあ、パッケージを売りつけたベンダーのせい」という訳ではなく、ここでも「道具を手に入れた」というくらいの考えで取り組む必要はあります。手に入れたから必ずしも勝てるという訳でもなく、それは一つの武器なので、実証実験の段階であっても「使いこなしていこう」という意識でないといけないと思います。
PROFILE

株式会社サイシード
中村陽二(なかむらようじ)
東京大学工学部、同大学院工学系研究科修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーでM&A、成長戦略の構築に携わった後、株式会社サイシード創業。100社以上の業務効率化、ツール導入に携わった実績を持つ。HP:https://www.sciseed.jp/