実装をして全てをAI任せにできない理由

AI実装をしてもなぜ人の仕事はなくならないのか

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連載:AI脳の創り方

Vol.10

ビジネスパーソンのための戦略的AI活用のキモ

実装後の注意点が示すAI時代の必須スキル

実装後の注意点が示すAI時代の必須スキル

AIの研究は引き続き活発で2019年になっても新しい成果が次々と出てきています。その成果を受け、ますますAIが使える領域が増えてきていますが、基本的にどんなAIであろうと大量の質の良いデータが必要になることには変わりがありません。むしろ、成果が表れているところはAIの開発と同時に十分なデータを用意するために様々な工夫をしていることが、これまでの事例からも見て取れます。

過去の連載でも述べてきましたが、AIの開発や導入においてはとにかくデータが重要になってきます。データ分析ではデータの前処理が全行程の8割と言われることがありますが、AIの開発や導入においてもデータの準備にそれくらいの労力をかけなければいけないと思っていた方が良いでしょう。

AIブームが始まった当初はデータ量があればAIが自動的にデータ分析してくれるというようなことも言われていました。全くの間違いというわけではないのですが、データさえ与えれば何かしらAIがいいようにしてくれるというわけではありません。

さらにいえば、十分なデータを用意できたと思っていても、うまくいくとは限りません。実際に検証を始めてみるとやはりデータの量であったり質であったりに問題があり、必要な精度を出せないことがほとんどです。そのため、AIの開発に合わせてデータを作っていく必要があるのですが、この作業は当然人力になります。

こうしたAIに学習させる作業を『アノテーション作業』と呼びます。アノテーション作業を自社のリソースだけでやるというのはなかなか難しいので、AI開発を行う企業の中にはこうした作業をやりやすくするためのツールを用意したり、別途人を用意してアノテーション作業を専門に行うサービスを提供したりするところもあります。こうしたアノテーションを専門に行うサービスは今後も増えてくるのではないでしょうか。

AIが浸透しても人の“領域”が残る理由

人の仕事を減らす役割を担うイメージの強いAIですが、どこかに人がやらなければいけない仕事は残ります。いやいやアノテーション作業は最初だけでその後はAIが全てやってくれるのだから結局人の仕事はなくなるのでしょうという人もいますが、そう簡単に全てをAI任せにできるわけではありません。むしろ、業務の中で使う以上はAI自体の管理という仕事は最後まで残るはずです。

例えば製品の不備をチェックするAIが開発されて”十分な精度”で不備のある製品を発見してくれているとしましょう。ここで言う”十分な精度”とは、問題があるとした中に実際には問題がない製品が多少含まれることは許容しても、全体的なチェック工数の削減効果の方が大きいという意味です。

目的は工数削減なので、人間は自動的にAIが取り除いてくれるもの以外を最終チェックするだけになります。このAIによるチェック工数の削減効果は期待通りで出荷される製品に問題もなく、一見全てが問題なく動いています。しかし、この運用ではAIが取り除いたものの中に本来は問題がない製品が含まれていたのかは誰にもわからない状態になっています。そうすると、どういったときに問題が起きるでしょうか。

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PROFILE

小泉 敬寛

株式会社 TMJ 営業統括本部 マーケティング推進本部 サービス推進部 Data Science推進室

小泉 敬寛(こいずみ たかひろ)

2008年より京都大学 工学研究科 助教としてウェアラブルメディア、コミュニケーションに関する研究を行う。2016年より株式会社TMJに入社。現職では統計処理や機械学習などの新技術に関する調査、研究・開発を担当。AIをはじめとする新規技術を使ったサービスやソリューションの提案やコンサルティングに取り組んでいる。

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