連載:Q&AI
Vol.5
AIベンチャー社長がズバリ指南。失敗しないAI活用の勘どころ
23May

AIベンチャー社長の中村氏が、AIビジネスを検討するビジネスパーソンの疑問や質問に回答するQ&A企画。今回は、コールセンターを運営する経営者から寄せられた声にズバリ回答いたします。
Q:人手不足や問い合わせ対応の工数増加を削減するため、ある程度自動化したいが、システム選びで失敗したくない
「慢性化した人手不足。その上、煩雑な管理も手伝って問い合わせ対応やその後処理に工数がかかっている状況。現在は電話対応をメインにしているが、システム導入である程度自動化し、改善できたら……。ただシステム導入で失敗したくはない。」
A:成功の秘訣は目先の課題改善だけでシステムや業者を選ばないこと
チャットボットやAI導入と聞くと、何となく“最先端“に聞こえますが、実際のところ、どうなのか分からない……という方がほとんどだと思います。どうすればコールセンターの課題を改善できて、失敗せずにやれるのか?
自動化できるシステム導入することで解決できる課題は次の3つ。
1.「応対の改善・効率化」…問い合わせで得たデータをトレーニング用の資料として活用することで応対の改善・効率化
2.「WEBの精度向上」…問い合わせで得た蓄積データによって応対を挟まない説明書の改善
3.「オペレーターの負荷減少」…自動応対による問い合わせ数の減少、応対中に回答をサジェストしてくれる(回答支援)、応対内容の文書化(ログ残し)
これらにより課題を改善することによって全体的なコスト圧縮、顧客満足度の向上を実現していけます。
しかし、自動化することによるデメリットもあります。
問い合わせなどを電話応対でしていたものをチャットやメールをメインにするわけですから、それを切り捨てるということになります。切り捨てるということは、当然、電話応対を望む顧客から嫌われます。
電話での応対が好きな顧客は、どのサービスにおいても一定数います。例えて言うと、ある携帯ショップへ来店して、「携帯電話の電源の入れ方がわからない」という、リテラシーの低いユーザーです。こういったユーザーは、応対の時間だけがどうしてもかかってしまいます。
世間体を気にして、マイルドに自動化しても、こういった顧客の応対コストは減りません。そのデメリットを受け入れるといった経営判断が重要で、痛み無くして改革はできないということではないでしょうか。
こうしたデメリットを理解した上で、システム導入を進め、自動化や適応化でコストダウン、効率化向上している企業はいくつもあります。代表的な例をご紹介します。
例えば不動産業。
非常にクレームが多い業態です。
問い合わせするユーザーは、管理会社への質問、補償会社への質問、仲介会社への質問が混在しており、とりあえず管理会社へ問い合わせをしてみた……というケースが多くみられます。この応対をボット化することによって、管理会社からほかへ問い合わせを促すことができ、本来対応すべきところへ力を入れられます。
「家賃の入金を忘れた」「契約期間はいつまで?」といった問い合わせについては、契約データベースと連動したボットが全自動で対応。
また騒音や水漏れなどボットが応対できないクレームに関しては、オペレーター応対に切り替えられるので、複雑な内容でも柔軟に対応。
つまり、自動対応と人間対応を組み合わせられるので、効率の良い応対が実現するということです。
どんなに強いクレームであっても、オペレーターはテキスト上でのやり取りになりますので、電話で受けるものとは違いストレスはそれほど感じないといいます。
そのほかに導入し、成功しているのは通信販売を運営している企業です。
通信販売の場合は、お問い合わせジャンルが非常に少なく、「返品」「解約」「配送状況の確認」がメインになります。そのため、お問い合わせの8割くらいはボットで自動応対できます。例えば、ユーザー側の認証と通販システムのデータベースの連携さえしていれば、お客様が注文番号を入力するだけで、現在の荷物の状況をボットが回答。そうすることで、お客様ご自身がわざわざサイトへログインをする必要がなく、問い合わせただけで自分が知りたかった情報を即座に入手できます。
オペレーターを介して応対していたときとは、雲泥の差です。会員情報や荷物の出荷状況、運送会社の配送情報を調べて対応していた工数が大幅に削減するとともに、迅速な応対によって顧客満足度の向上につながるといいます。
失敗しないための業者選びのコツについては、上記の通信販売のように3つしか回答することがありませんという場合は、通販システムにつなぎ込みができるところであれば、言語解析機能はあまり必要ではありませんので、料金重視で良いと思います。
但し、問い合わせデータが1,000~2,000というような膨大な量で、顧客からの質問などがまとまっていない場合は、顧客からの言葉を解釈し、うまく回答へと導いてくれる性能の高いもの、そしてデータ整備を一緒にやってくれるところを選ぶことをおすすめします。
なぜなら、データ整備を一緒にやり、エンジニアをトレーニングしてくれるところではないと、どんなに良いエンジンを使っていたとしても、その後の運用で効果を全く発揮できないからです。
と、ここまでが最低要件。
ボットであったり、FAQを導入すると、そこからデータが手に入るので、それをオペレーターのマニュアルとして使ったり、上位のお問い合わせによって施策を考えたり、経営改善の提案までもしてくれたりする業者を選ぶべきだと思います。
PROFILE

株式会社サイシード
中村陽二(なかむらようじ)
東京大学工学部、同大学院工学系研究科修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーでM&A、成長戦略の構築に携わった後、株式会社サイシード創業。100社以上の業務効率化、ツール導入に携わった実績を持つ。HP:https://www.sciseed.jp/