AIチャットボット活用を最大化するポイント

AIチャットボットはなぜ、顧客との会話が“苦手”なのか

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連載:AI脳の創り方

Vol.5

ビジネスパーソンのための戦略的AI活用のキモ

まだ“未熟”なAIチャットボットを有効活用する勘所

AIチャットボット

人に代わって消費者の質問などに回答してくれるAIチャットボットサービス。導入の手軽さやその利便性から普及が拡大していますが、“会話”の進化はあまり見られません。研究も進むAIチャットボットサービスがなぜ、「りんな」のように自然な会話にならないのでしょうか。

なぜAIチャットボットの“会話”はなかなか円滑にならないのか

そもそも「りんな」が実験的な側面で作られていて汎用的なサービスではないということももちろんあります。しかし、大きな違いは、“会話”の内容です。「りんな」が主に行うのは雑談です。一方、受付や窓口に来るような問い合わせや依頼には何かしら会話のゴールがあります。ここが両者が決定的に異なる点です。

詳しく説明しましょう。雑談であれば多少前後の文脈やこちらの意図とずれたことを言っても特に気にはなりません。会話の終わりというものも特に意識されません。しかし、窓口への問い合わせはどうでしょう。質問しても意図や内容をしっかりと理解してくれず、手続きを完了させるために必要なことを聞いてくれないとすれば、利用者にはストレスが溜まります。

今の『AI』は膨大な発話パターンを覚えることで、様々な発話に適切な回答をみつけることなら人間以上にうまくできます。ただし、覚えられるパターンは[質問]-[回答]のように一組だけ。従って、雑談のように文脈があまり重要でない会話や、一回で答えが返せるような場面なら”正しい”答えを返すことも可能です。

しかし、実際の業務場面はそんなに単純ではありませんよね。会話をしながら困りごとの特定に必要な情報が不足していることを把握したり、相手の状況を予測しながら必要な情報を得るための聞き方を選ぶなど“会話のコントロール”を行うことが必要になります。そうした会話の全体像や進行度合いに応じて変化していく「会話の流れ」とでも言うものを学習することは、今のAIにもできません。

チャットボットにできるのは、単純なFAQに答えることや、ピザの注文のようにある程度会話の流れが決まった応対だけ。それがチャットボットにおけるAIの現在地です。

AIチャットボット活用を最大化するための考え方

だからといって、それに効果が全くないわけではありません。誰もがつまずくパスワードの再設定の方法をいつでも教えてくれるチャットボットや、24時間とりあえず困りごとを受け付けてくれるチャットボットなどは、使いどころが正しければコスト削減だけでなく顧客満足度や会員継続率の向上などへも効果が期待できるでしょう。

チャットボットサービスは比較的低価格で導入も簡単です。一方で、人間が今現在、業務でどんな複雑なコミュニケーションをしているのかを解き明かすのは、チャットボットにとっては非常に難しいことです。

チャットボットの導入を検討する際には人員減によるコスト削減というのが大きな目的になる場合も多くあるでしょう。ですが、現在のチャットボットは他の多くのAI技術と同様に基本的には特定の(例えば[質問]に対応する[回答]ができる)機能しか持ちません。ですから、単純に人間のやっている業務をチャットボットに任せて減らそうとしてもうまくいかない場面は多くあります。

チャットボットに限らず、今のAIができることは人間が行える知的作業の中でも極一部分だけ。ですから、人間の代わりをさせることより、チャットボットにしかできない利点を活かした使い方を考える。その方が後々よい結果が得られやすいでしょう。

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PROFILE

小泉 敬寛

株式会社 TMJ 営業統括本部 マーケティング推進本部 サービス推進部 Data Science推進室

小泉 敬寛(こいずみ たかひろ)

2008年より京都大学 工学研究科 助教としてウェアラブルメディア、コミュニケーションに関する研究を行う。2016年より株式会社TMJに入社。現職では統計処理や機械学習などの新技術に関する調査、研究・開発を担当。AIをはじめとする新規技術を使ったサービスやソリューションの提案やコンサルティングに取り組んでいる。

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