AI化と事業規模の相関関係

AI化に負けないための商売の規模感と極意とは

menu

×AI

連載:逆説的AI論

Vol.3

小阪裕司(ワクワク系マーケティング)×境目研究家・安田佳生

商売のAI化の先にある同質化という副作用

安田氏と小阪氏

AI全盛時代。あえて非AI的アプローチで本質へ突き進めば、どこまでがAI化の領域か見えてこないか。そうした観点から境目研究家・安田氏が、各業界の専門家に迫る対談企画。今回は小阪氏との対談第三弾。

『世界のキワを見極める』

安田 毎日大勢のお客さんが押し寄せる、田舎の小さなスーパーがあるって話でしたけど。

小阪 はい。あるんですよ、これが。

安田 でも、どんなに人気が出ても「ウォルマートの売上を超える」っていうのは現実的じゃないですよね?

小阪 それは現実的ではないですね。

安田 逆に言うと、一部の強烈なファンが「他では替えがきかない」と感じてくれれば、ビジネスとして立派に成立するということですよね?

小阪 まさに、その通りです。

安田 でも経営者って、すぐに規模を大きくしたがるじゃないですか。

小阪 そうなんですよね。そこの見極めがとても大事なんですけど。

安田 大勢に受けるように「広げれば広げるほど」つまらないビジネスになっていく気がします。

小阪 同感ですね。どこかに際があるんですよ。

安田 キワですか?

小阪 はい。これ以上大きな規模にすると、魅力を棄損してしまうというライン。

安田 なるほど。

小阪 規模だけを追いかけると、お客さんのデータから価値を考えることになりがちです。だから、どうしても価値が似通ってくる。

安田 そうなってしまいますよね。

小阪 データが多ければ多いほど似通ってくる。そちら側では、資本の大きさとテクノロジーの勝負になる。

規模を追うのか、ワクワクを追求するのか

安田 そちら側?

小阪 はい。二極化するということですね。規模を追いかけるビジネスは、そちら側。我々のやろうとしているビジネスは、こっち側。

安田 そちら側で勝つのって、かなり難しいですよね?

小阪氏

小阪 勝ち残れるのは、各分野でせいぜい2〜3社でしょうね。

安田 では、それ以外は「こっち側」を目指したほうがいいと?

小阪 そう思いますね。

安田 規模は小さくても、顧客を魅了し続ければビジネスは成立する?

小阪 持続可能なビジネスになりますね。

安田 どのくらい豊かになれますか?月には行けませんよね?

小阪 月には旅行に行けなくても、ハワイぐらいは行けます。

安田 私だったら、それで十分ですけどね。

小阪 うちの会員さんは、それを潔く選ぶ方が多いです。規模の追求をどこかでやめて、顧客を魅了し続けるという選択をする。

安田 zozoタウンも 大きくしていくために、ヒートテックみたいなの作り始めましたけど。どうしても他社と似てきますよね。

小阪 顧客のニーズから考えると、そうならざるを得ないんですよ。

安田 でも規模の追求をやめたからって、全く大きくならないわけじゃないですよね?

小阪 そうなんですよ。よく昔から「向こうがマスマーケティング」で「こっちはニッチ」という捉え方をされるんですけど。

安田 それが間違っていると?

小阪 ニッチと言われるほど、「ワクワクしたい人」は少ないわけじゃないんですよ。

安田 確かにそうですね。みんな心の何処かでワクワクしたいですもんね。

小阪 そう考えると「こっち側の見込み客」は結構世界中にいるんですよ。すごい数で。

安田氏

安田 じつは私、懐中電灯マニアでして。

小阪 知ってますよ。かなり高いんですよね?

安田 ひとつ6万円ぐらいする懐中電灯なんですけど。「こんなの買う人いるのか」ってみんな言うんですけど、世界中で売れてるんですよ。

小阪 分かります。私はご存知のように、スターウォーズマニアじゃないですか 。

安田 はい。存じ上げております。ライトセイバーのレプリカを何個も持ってらっしゃいますよね?

小阪 興味ない人から見たら「ただの金属の棒」ですけど、欲しいっていうマニアは世界中にいるわけです。

安田 そうじゃなかったら、あんなに高くならないですよね(笑)。

小阪 そういう消費感性って、じつは誰にでもあるんですよ。

大きく変化した「消費感性」が高めた世界観の価値

安田 日本人の「消費感性」って、ここ十数年ですごく変化した気がするんですけど。

小阪 はい。変化しましたね。

安田 我々が20代ぐらいの時は、みんなレノマとかルイヴィトンとか、持ってたじゃないですか。

小阪氏

小阪 そうでしたね。二人に一人くらいは持ってる感覚でしたね。

安田 まず「このブランドありき」みたいな。それが変化した気がします。

小阪 間違いないですね。

安田 料理屋さんでも、昔は有名店で食べることに、もっと価値があったじゃないですか?

小阪 有名料亭でご飯食べたというだけで「スゲー!」みたいなのは、ありましたね。

安田 今はどちらかと言うと、店よりも人だと思うんですよ。「このシェフが作ってる料理」とか「このパティシエが作ってるケーキ」とかを食べたい。

小阪 確かに、そういう傾向はありますね。

安田 バッグとかも「有名ブランドのバッグ」じゃなくて、知る人ぞ知る「職人が手作りしたバッグ」とかが人気になったり。

小阪 なんか人とも言えるし、その人が持っている世界、世界観とも言える。

安田 世界観ですか。なるほど、そうかもしれません。

小阪 すごい有名な天ぷら屋さんがあるんですけど。

安田 天ぷら屋?

小阪 「天ぷらは私にとって美学の実践です」って書いてあるんですよ。もはや売ってるのは天ぷらじゃない。

安田氏と対談する小阪氏

安田 世界観を売っているんだと。

小阪 まあでも、天ぷらなんだけどね(笑)。

安田 分かります。天ぷらを通じて、 彼の美学を味わいに行ってるわけですよね。

商いの本質はアート

小阪 それって、アートなんですよ。

安田 アートですか?

小阪 商いの本質はアートだと思うんですよね。

安田 アートのイメージって、ある人にとっては「それがあるだけで、すごく心が豊かになる」みたいな。でも、それ以外の人にとっては別に何の価値もない、みたいな。

小阪 基本、アートとはそういうもんです。

安田 じゃあ、商いもそれでいいと?

小阪 はい。魅了する数が多いアートもあれば、少数の人しか魅了されないアートもある。それがアートの本質。マスでは考えてない。

安田 でも最小限の魅了される人がいないと、商いは成立しませんよね。

小阪 その通りですね。

安田 自分の世界観とか美学とかで食って行くとしたら、家族が食うに困らず、何年かに一回ハワイに行くには、何人ぐらいのファンがいれば成立するんですか?

小阪 1500人

安田 1500人ですか!すごい、即答しましたね?

小阪 はい。私はずっとワクワクの世界でやってますから。1500人いれば成り立ちます。

安田 そうなんですか。

小阪 1500人がひとつの単位。あとはどれぐらいの規模でやるかによって、ファン数は変わります。

適正な規模の見極めが商いの生命線になる時代

安田 じゃあ、もっともっと増えていくこともあり得ると?

小阪 ウチに入会して2年で5000人のファンクラブを作っちゃったハンバーグ屋さんもあります。5000人もいたら行列ができてしまいます。

安田 そうなりますよね。

小阪氏

小阪 「商いとして成立するアート」という立ち位置で考えると、「ちゃんとやる」ということがとても大事になってきます。

安田 「ちゃんとやりつつ大きくなる」のならいいけど、「ちゃんとできないぐらい大きくしちゃう」のはいけないよと。

小阪 「世界観が消えてなくなってしまう」ような大きさは、ダメってことですね。

安田 なるほど。大きくすることが目的だったら、とことん大きくするしかない?

小阪 その通りです。中途半端な規模になっちゃってるところが、一番しんどい。

安田  ベストな規模ってどうやって算出するんですか?

小阪 算出するのは難しいんですが、作り出している世界観によって「適切な規模」というのが必ずあります。

安田 その際を見極めろと。

小阪 はい。自分の世界観が崩れない際はどこなのか。その見極めが生命線となります。

全4連載「小阪裕司(ワクワク系マーケティング)×境目研究家・安田佳生」
Vol.1 AI楽観論に潜む意外な盲点
Vol.2 AIに負けない商売づくりの成功法則
Vol.3 商売のAI化の先にある同質化という副作用
Vol.4 AI時代に埋もれない経営と埋もれる経営の境目

PROFILE

ワクワク系マーケティング

小阪裕司(こさかゆうじ)

山口大学人文学部卒業(美学専攻)。社会人選抜の飛び級にて、工学院大学大学院博士後期課程入学、2011年3月博士(情報学)取得。作家、コラムニスト、講演・セミナー講師、企業サポートの会主宰、行政とのジョイントプログラム、学術研究、ラジオ番組パーソナリティなどの活動を通じ、これからのビジネススタイルとその具体的実践法を語り続ける。人の「感性」と「行動」を軸にしたビジネスマネジメント理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県から千数百社の企業が参加している。著書は『「お店」は変えずに「悦び」を変えろ!』(フォレスト出版)はじめ、新書・文庫化・海外出版含み計39冊。

PROFILE

安田佳生

境目研究家

安田佳生(やすだよしお)

1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。

関連記事