連載:逆説的AI論
Vol.1
小阪裕司(ワクワク系マーケティング)×境目研究家・安田佳生
13Mar

AI脅威論が叫ばれる一方で楽観論もある。しょせんは機械であり、単調作業や効率アップは得意でも“人間らしさ”に及ばないという自負がどこかにあるからだろう。境目研究家の安田佳生氏は今回、ワクワク系マーケティングで多くの商いを成功に導いている小阪氏に肉薄。商いとAI化の境い目に迫った。
『AIはおもてなし上手』
安田 仕事が AI に取っていかれると言われています。小坂さんがやっていらっしゃる仕事って、まさに「取られにくい仕事づくり」という感じなんですけど。
小阪 その通りですね。特に最近実感してます。
安田 小阪さんから見てAIとは何ですか?
小阪 AIを考える時に「人と機械」みたいな見方をされる人が多いですよね。
安田 人工知能が動かす機械、というイメージですね。
小阪 「機械はこれができるけど、こういうことはできないよね」という文脈で話す人が多いじゃないですか?
安田 多いですね。
小阪 私はそこがちょっと違うと思うんですよ。
安田 どういう部分が違うと感じるのですか?
小阪 私は情報学の博士ですから、人工知能の知識/情報って結構入ってくるんですけど。
安田 まあ、ある意味専門家ですよね。
小阪 たとえば「おもてなし」って人間っぽいから 機械は苦手でしょう、みたいな話があったりするんですけど、意外と AIは おもてなしが得意なんです。
安田 おもてなしのイメージは湧かないですけど。
小阪 AIは相手の情報をいっぱい持ってますから。この人にはこういうことを言ってあげればいい。要望はされてないけどこういうことも言ってあげるといいなとか。
安田 聞かれてないけど、相手のためになることを言ってあげる、みたいな。
小阪 そういうことができちゃう 。人が 相手を慮ってやるのとはロジックが違って、バックデータから来るんだけど、気が利かない人よりずっとおもてなし上手ですよ。
安田 確かにレコメンドとかうまいですよね。データを持ってるからなんでしょうね。
小阪 そう。そのレコメンドも今すごいひねってくるでしょ。
安田 ひねる?
小阪 たとえばネットフリックスなんかは、単にその人がよく見る傾向の映画をリコメンドするだけじゃなくて、見てる理由まで読んで そのおすすめシーンも推薦したりね。
安田 気の利かない人には到底無理なリコメンドですよね。
小阪 私と安田さんでリコメンドを変えて出してきたりもします。その受容率は75%と言われています。気の利かない人より、よっぽどおもてなし上手だったりします。
安田 「ロボットは休まず働いてくれる」みたいなイメージじゃないよと。
小阪 AI のコミュニケーションを研究している人たちに言わせると、「本当に、人間かと思えるような気の利いたリアクション」があるみたいです。
安田 「おもてなし」という人間らしい仕事は取られない、というのは間違いだと。
小阪 そういう誤解は結構あると思う。これは人間、これは機械、という単純なものではないということですよね。
AIに代替されにくい仕事とは
安田 じゃあ、AIに取られない仕事って、たとえばどういうものですか?
小阪 私が主宰している企業の会、ワクワク系マーケティング実践会(以下ワクワク系)の会員さんたちを見てると「データがなくても相手を感動させられる部分」がそのひとつだと思います。
安田 「やり方の違うおもてなし」ってことですか。
小阪 本質が違う感じがしますね。「 データをベースにしたレコメンド」と、そこから「思考を飛躍させた提案」みたいな。
安田 思考の飛躍ですか?
小阪 「なんと!そう来たか!」みたいな。
安田 相手の予想を超えるということですか?
小阪 そういう部分が多々ありますね。
安田 データを分析して「相手の予想を超えるレコメンドをする」というのはAIにも出来そうですけど。
小阪 データがベースになって、そこから何かを発案しているわけじゃないんですよ。
安田 じゃあ、何がベースになってるんですか?
小阪 自分の中のワクワクですね。
安田 売る側の人が「自分がワクワクするようなこと」を提案しているって事ですか?
ビジネスにおけるAIの弱点とは
小阪 そこが本質ですね。AIには出来ない部分。
安田 なぜ出来ないんですか?
小阪 だってAIには「自分の世界」がないじゃないですか。自分の世界観に基づいて何かを広めたいという「動機」もない。
安田 確かに動機はないですね。
小阪 ワクワク系の人達は「自分の世界」があって、その楽しさを「教えたり伝えたりしたい」っていう動機が根っこにある。
安田 自分がワクワクするものを、広めていきたいという動機?
小阪 そう。それが本質。
安田 じゃあ、そういう「自分がワクワクするもの」を持っていない人たちは、AIには勝てなくなると?
小阪 自分の中に動機がないと、相手の目的に合わせるしかないので。
安田 その分野では勝てない?
小阪 こっちが安いとか、お得ですよ、みたいな「明確な目的に合わせたレコメンド」では勝てないでしょうね。
安田 でもほとんどのビジネスって、今はそんな感じですよね?
小阪 そうですね。データベースに基づいて「売りもの」をレコメンドするというやり方。
安田 それでは小さな会社は生き残っていけない?
小阪 厳しいでしょうね。
安田 ワクワク系の方はどういう業種が多いんですか?
小阪 業種は多種多様に渡ってますね。ただ、特徴みたいなものはあります。
安田 ほう。それはどのような?
AI時代に埋没するビジネスの取り組み方
小阪 まずは従来型のオーソドックスな小売・サービス業や製造業、たとえば酒屋とか クリーニング屋とか、お菓子のメーカー、建材メーカーとか。ただ最近、今そういう人たちが、会員の中では少数派になってきている傾向もあります。
安田 どういう意味ですか?
小阪 従来の産業分類で定義しにくいジャンルの方が、増えてるということです。
安田 何業か分からないような人たちの方が、仕事がうまく行っていると?
小阪 結果的にそうなっているということです。
安田 業種に縛られちゃってる人は、あんまり面白い仕事ができてないってことですかね。
小阪 従来型の業界の中でも「自分がワクワクするもの」を生み出していく人たちは、逆に業績を維持できてますね。
安田 そういう人たちは増えてるんですか?
小阪 いや、社会全般的には、業績も意欲も落ちている人の方が多いですね。
安田 そうなんですか?
小阪 はい。意欲が落ちてるのは大きな問題で、新しいことを学ばない。
安田 学ばないで、ずっと同じことをやってると?
小阪 残念ながらそうですね。こういう時代だからこそ、 AI では出来ない価値を自分で作っていかないといけないわけですけど。
安田 クリーニング屋が本来やらなくてもいい余計なことをやって、新しい価値を提供するとか?
小阪 そういうことですよね 。今までのような商売を、 今までのようにやって、ただ価格を下げたり、お客さんを取ったの取られたのしている先には、もう未来はないと思います。
全4連載「小阪裕司(ワクワク系マーケティング)×境目研究家・安田佳生」
Vol.1 AI楽観論に潜む意外な盲点
Vol.2 AIに負けない商売づくりの成功法則
Vol.3 商売のAI化の先にある同質化という副作用
Vol.4 AI時代に埋もれない経営と埋もれる経営の境目
PROFILE

ワクワク系マーケティング
小阪裕司(こさかゆうじ)
山口大学人文学部卒業(美学専攻)。社会人選抜の飛び級にて、工学院大学大学院博士後期課程入学、2011年3月博士(情報学)取得。作家、コラムニスト、講演・セミナー講師、企業サポートの会主宰、行政とのジョイントプログラム、学術研究、ラジオ番組パーソナリティなどの活動を通じ、これからのビジネススタイルとその具体的実践法を語り続ける。人の「感性」と「行動」を軸にしたビジネスマネジメント理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県から千数百社の企業が参加している。著書は『「お店」は変えずに「悦び」を変えろ!』(フォレスト出版)はじめ、新書・文庫化・海外出版含み計39冊。
PROFILE

境目研究家
安田佳生(やすだよしお)
1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。