愛とAIの間にある人間の可能性

AIマッチングが人間の無限の可能性を引き出す

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連載:逆説的AI論

Vol.6

藤井薫(リクナビNEXT編集長)×境目研究家・安田佳生

非AI領域とAI化の境目にある働くの未来形とは

安田×藤井

境目研究家・安田氏とリクナビNEXT編集長の藤井薫氏がAI化をテーマに採用の未来を探る特別対談もいよいよ最終回。現状の採用の問題点追求から始まった対談は、AIマッチングの大いなる可能性に波及し、「働く」の明るい未来を照らし出す形でフィナーレを迎えたーー。

AI時代に稼げる人の共通項

安田 優秀な人材が多いと言われるリクルートですが、藤井さんから見て「稼げる人の共通項」って何かありますか?

藤井 ひとつは「かわいがられキャラ」ですね。

安田 かわいがられキャラ、ですか。

藤井 いまはAIも含め、最適解がどんどん出る時代。AIによる画像認識だと、がんの発見率はお医者さんよりも高い。

安田 そうなって来ますよね。

藤井 そうした中で、例えばある社員の人事データをAIに放り込むと「次は南極に異動してくれ」という指示が出たとします。

安田 南極ですか!

藤井 それが最適解なのは確かです。でも、そこに納得感はない。AIに指示された社員は「なんで南極なんだ」と思うでしょう。

安田 それはそうでしょうね。

AI時代に稼げる人の共通項藤井 でも、尊敬する上司から魅力的な笑顔で言われると、納得しちゃうかもしれない。先が見えない時代は、正解主義じゃなく共感主義なんですね。

安田 共感主義の時代には「かわいがられキャラ」が武器になると。

藤井 はい。

安田 具体的にはどういう人が可愛がられるんですか?

藤井 アントレ時代に、多くの成功する起業家に教えてもらったキーワードは「ナルカマゾ」です。

安田 なるかまぞ?

藤井 まずナルシスト。自分がやっていることが大好きで、うれしくて話したくてしょうがない。自分を信じている人ともいえますね。真面目に言えば、人生を賭して“こと”に打ち込もうとしている人。

安田 「なる」は自分に賭けるナルシストなんですね。

藤井 次はかまける。漢字では“感ける”と書きますが、「心を引かれる、感心する、共感する」の意味があります。何か熱中できることを持っていること、そして仲間の気持ちに寄り添い、共感できる豊かな感性を育んでいる人です。

安田 「かま」はかまけるだと。はい。

熱く語る藤井氏藤井 最後はマゾです。想定外の痛い体験が大好きな人。弊社でもサーバーが落ちて事業の一大事なのに、「これは面白いことになったぞ」と笑いながら楽しめちゃう人ですね。

安田 「ナルシスト」「かまける」「マゾ」が可愛がられると。確かに自己開示できる人は可愛がられるといいますけど、ちょっと意外な感じですね。

共感力が重要になる脱管理統制社会の処世術

藤井 これから会社というものの存在意義が大きく変質していくプロセスで、変化を前提としない予定調和的な計画を、階層構造をベースにコマンド&コントロールする、旧来型の管理統制機構も徐々に弱まっていくと予測されます。

安田 管理統制がなくなって行くんですか?

藤井 そうです。管理統制に変わって「共感」がプロジェクトを推進することになります。

安田 管理統制型から共感運営型に変わると。

藤井 その象徴といえるリナックスは、世界中のプログラマーがその理念に共感し、ほぼ無給で開発しています。

共感力が重要になる脱管理統制社会の処世術安田 そうなんですか!

藤井 共感によってつながる組織は、これほどの力を生み出すということです。

安田 なるほど。

藤井 これからは会社は溶けて、人と人が共感でつながっていく。だから共感する能力の重要性が高まっていく。かわいがられキャラは、まさにその能力が高い人材といえるわけです。

安田 人間味のあるキャラとも言えるでしょうね。

AIの弱点にある人間の強み

藤井 AIって用途を限定した単調な反復や大量のデータ処理が得意です。一方で愛や信頼などコピーできない情報やそもそもデータがない状況には弱い。

安田 愛や信頼に弱い。なるほど。

藤井 今のAIにはできないのは、ゴールセッティング、インサイト(本音の言語化)、そしてなぜそうなったのかの説明責任(アカウンタビリティ)の3つといわれています。

安田 「目標設定」と「本音の言語化」と「説明責任」ですか。

藤井 ボーイングって全行程の大半がオートパイロットで、7分間だけ人の領域が残されていると聞いたことがあります。。

安田 たった7分間ですか!

藤井 そうです。でも例えば機体が大きく揺れた時、人間が「大丈夫です」とアナウンスするのとAIがするのでは乗客の安心感がまるで違いますよね。

安田 確かに違いますね。

藤井 わずか7分間でも、そこには簡単には超えられない大きな壁があります。

安田 そうした「人間ぽくない部分」を改善するように、AIも進化していくと思うのですが。

藤井 AIの進化の最終プロセスでたどり着けない領域は「肉体と自我をもつこと」だと言われています。

安田 それは確かに無理そうですね。

藤井 実は「自我を持つこと」は研究されています。「AIが自分の意思で決定する」ということが起こりうるかもしれません。

安田 ちょっと怖いですね。

AIの弱点にある人間の強み藤井 たとえばがAIが「経営者全員をクビにすること」を決定した時、人間はそれに従うのか。何より怖いのは、戦争とかそっちへ行ってしまうことですね。

安田 戦争がAIの出した最適解だったとしても、人間だったら避けることを考えるかもしれない。そういうことでしょうか?

AIの存在感が高まるのに比例して際立つ「人間の知性の力」

藤井 AIの存在感が高まるのに比例して「人間の知性の力」が際立つことになるでしょうね。まさにAIとの共進化によって、人の可能性がさらに広がっていく。

安田 「AIの技術」と「人間の知性」は共に進化していく必要があると。

藤井 はい。そして、その先には「自らが心から好きなことに旗を立てて楽しむ、旗楽(はたらく)」と「未来の世代も含めた、自らの傍(からわら)にいる人が楽になる、傍楽(はたらく)」を重ねて仕事にする。そんな「未来の働くカタチ」が待っているのではないでしょうか。

安田 これまでは「働く喜びより、売り上げ重視」の世の中でした。AIによって働く喜びが増えるというのは、いわゆるAI脅威論と対極で興味深いですね。

藤井 シェアリング・エコノミーやボランタリー・ネットワーク、贈与経済や共感経済が次第に大きくなるにつれて、GDPやキャッシュフロー、PL、BSといった、旧来の経済指標もだんだん古くなってきています。時代が大きな転換点を迎える中で、いまだに古い指標に踊らされている企業や産業もたくさんあります。

安田 その通りですね。

藤井 だからこそ「人間や組織の可能性を引き出し、拡げる、新たな基準」を作っていかないといけない。愛とAI。その二つの境目に漂うものを拓く。その一翼に一ミリでも関与できればいいなと思っています。(了)


【編集後記】
「AIによって人の可能性を拡げる」。藤井氏が対談中、何度も口にしていたのがこの言葉。AIがヒトから仕事を奪うという発想がナンセンスなのは自明にしても、AIによって人の可能性を引き出すという視点は、新鮮かつ重要だと思います。人間では気づけないようなスーパーな演算処理能力などで膨大なデータを解析。思わぬ発見をもたらしてくれる。そうだとすれば、AIはまさに人間にとって最高の“パートナー”となります。まずは人材マッチング領域において、ミスマッチをどんどん減らすことが、藤井氏にとってのミッションといえるのでしょう。個々が自分のポテンシャルを最大限に発揮して働く。そんな社会になれば、日本の国力が上がるだけでなく、世の中が幸福に満ち溢れるのではないでしょうか。AIはなにができるのか。素直にそこにフォーカスするだけでも豊かな社会を創るヒントが見えてくる筈です。

全6連載「藤井薫(リクナビNEXT編集長)×境目研究家・安田佳生」
Vol.1 採用とAI化の境目には何があるのか
Vol.2 変化する採用戦略と採用AI化推進の必然
Vol.3 仕事でなく人にマッチングする究極のカタチとは
Vol.4 AI化が推進するマッチング2.0で変わる働くことの意味
Vol.5 AIマッチング時代にヒトはなにをするべきか
Vol.6 非AI領域とAI化の境目にある働くの未来形とは

PROFILE

リクナビNEXT編集長

藤井薫(ふじいかおる)

1988年慶応大学理工学部を卒業後、リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社。B-ing、TECH B-ing、Digital B-ing(現リクナビNEXT)、Works、Tech総研の編集、商品企画を担当。TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長・ゼネラルマネジヤーを歴任。2007年より、リクルートグループの組織固有智の共有・創発を推進するリクルート経営コンピタンス研究所コンピタンスマネジメント推進部及グループ広報室に携わる。2014年よりリクルートワークス研究所Works編集兼務。主な開発講座に『ソーシャル時代の脱コンテンツ・プロデュース』『情報氾濫時代の意思決定の行動心理学』などがある。

PROFILE

安田佳生

境目研究家

安田佳生(やすだよしお)

1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。

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