社会構造の変化でシフトする採用戦略とAI化の関係

人材サイクルの短命化が採用の最適化とAI化を誘う

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変化する採用戦略と採用AI化推進の必然

変化する採用戦略と採用AI化推進の必然

<連載:逆説的AI論>
藤井薫(リクナビNEXT編集長)×境目研究家・安田佳生 Vol.2

境目研究家・安田氏とリクナビNEXT編集長の藤井薫氏がAI化をテーマに採用の未来を探る特別対談第2弾。今回は、採用を取り巻く環境の変化に切り込みながら、AI導入が必然となりつつある社会の輪郭をなぞっていく。

社会構造の変化と採用戦略の進化

安田 昔々バブルの最中は、文系をひとり採用するのに200万円とか、理系だと300万円かかるといわれていました。

藤井 そうでしたね。

安田 当時はそれだけお金をかけても、良い人が採れて活躍してくれれば回収できました。でも今はそれが成り立たなくなっています。

藤井 どういう意味でしょうか?

安田 社員1人あたりが生み出す利益が減っているということです。つまり、昔ほど「高い金を払ってでも、正社員を増やすメリット」がない。

藤井 それは求める人材領域によって随分違ってくると思っています。

安田 ほう。求める人材領域ですか。

藤井 経営戦略と採用戦略はコインの裏表です。リクルートワークス研究所では四象限(下図参照)に分けて考えています。

4象限で人材のポートフォリオを解説する藤井氏安田 四象限?

藤井 はい。ひとつの軸は、ロングタームかショートタームか。

安田 時間軸ですね?

社会環境の変化で変質した採用の基準

藤井 そうです。時間的に考えると、今は競争優位をつくるまでの時間が年々、短くなっています。例えば、2年ぐらしかない分野もあります。

安田 2年という時間は、どこから割り出しているのですか?

藤井 例えば自動運転やEV、カーシェアリングのようなものは、デファクトスタンダードを取ったプレーヤーが全部取ってしまう。

安田 そうですね。

藤井 テーマが示されてから2年を超えると、まず間違いなくリーディング・カンパニーがデファクトスタンダードを取ってしまいます。

安田 なるほど。早いですね。

藤井 もうひとつの軸は、タレントか組織。

安田 「個人のパフォーマンスが重要な戦略と、組織のパフォーマンスが重要な戦略」ということでしょうか?

藤井 おっしゃる通りです。競争優位を生み出す源泉が、たった一人のタレントによって生み出されるサッカーや野球のような世界が「タレント」軸。もう一つは、例えば、チェーン・オペレーションの店長やセールスドライバーのように、全国規模で数百人、数千人規模の人数が採用・活躍が競争優位の源泉となる「組織」軸です。

安田 「時間軸」と「タレント・組織軸」。その四象限によって、採用すべき人材は違うと。

藤井 はい。

安田 では、そこさえ間違えなければ、採用の投資は無駄にならないと?

出典:リクルートワークス研究所「戦略的採用論」

藤井 そう考えています。例えば、右上の「タレント×ショートターム」の象限だと、社内の給与体系を壊してでも資金を投下する。

安田 1人のタレントが短期間で大きな成果をあげるから。

藤井 その通りです。一方で左下の「組織×ロングターム」の象限は、報酬は抑えつつ、接客力を上げるための教育トレーニングや、生産性向上のための業務システムに予算を投下する。

安田 長い時間をかけて、組織全体で成果をあげる戦略ですね。

藤井 そうです。「組織×ロングターム」の戦略において、一人のタレントだけに大きな資金を突っ込んでも回収できない。

採用とAIの境目に迫る対談で意見を交わす安田氏(左)と藤井氏安田 なるほど。

藤井 経営の目的よって、お金を「一人のタレントに、短期で張るところ」と「張らないところ」のポートフォリオを明確に組む。ここが重要なのです。

安田 右上だったらAIのトップ・エンジニアのように、企業に大きな競争優位や爆大な利益もたらす人材もあり得るってことですね?

藤井 そうです。実際、100年に一度の変革を余儀なくされる自動車業界では、そうした異次元のタレント採用戦略に踏み出しています。

採用だけでは解決できない課題まで

安田 でも、どうなんでしょう?

藤井 納得いきませんか?

安田 いえ、ポートフォリオについては納得しました。ただ、ほとんどの求人は、左下じゃないですか?

藤井 と言いますと?

安田 今ある仕事をこなしてもらうことによって、かすかな利益を生み出す経営。給料を払った差額が利益として会社に残る。

藤井 なるほど。

境目研究家・安田佳生氏安田 だから採用にお金をかけられない。でもかけないと人が採れない。

藤井 だったら戦略を変えないといけないですね。

安田 その通りです。小さい会社ほど、こなすだけの仕事を、なくしていかないといけない。

藤井 そうですよね。

安田 でも現実は中小企業ほど「真面目に仕事をこなしてくれる人材を、できるだけ安い費用で」採用しようとしている。もはや、事業として成り立っていない気がします。

藤井 その点でいうと、もう一つ考えるべきパターンがあると思います。

安田 もう一つのパターンですか。

藤井 左上の「タレント×ロングターム」の領域。地方企業では、10年後の後継者問題が噴出しています。

安田 確かに、そういう相談も多いですね。

藤井 事業承継したいけど、タックスの問題でできない。息子が継ぎたがらない。あるいは感情の問題で、部外者に渡したくない。

安田 そこは、これから日本が直面していく、大きな課題ですよね。

藤井 UIターンフェアで地域の転職フェアをやると、「無名だけどもの何期も連続で黒字成長をし続けている元気な企業」に出会います。

安田 そうなんですか?

藤井 事業は成り立っている。でも残念ながら、営業部長や役員候補など、次の成り手がいない。

安田 社内に候補がいない、ということですか?

藤井 はい。バブル時に採用を絞っているので、30代、40代がいなくて10年後の経営の担い手が不在なのです。

安田 なるほど。

藤井 事業が成り立ってない背景には「商品やサービスが弱い場合」と、それらは強いが「担う人材を揃えられない場合」があるのです。

安田 前者は採用では解決できないけれども、後者なら採用によって解決できると?

藤井 そういうことです。

企業寿命が20年を切る時代の採用戦略とは

安田 それもある意味、新しい形の事業承継ですよね。承継さえできれば、企業って続いていくんでしょうか?

藤井 データで見ると、企業の平均寿命は1960年代が60年でしたが、今は20年を切っています。どんどん短命化しているのです。

安田 20年を切っていますか。

藤井 世界的に見ると、生き残っている企業でも資本が変わっていて、中の人は相当なリストラククチャリングの波を受けています。

安田 そうですよね。経営者も株主も社員も全部入れ替わって、それで生き残っていると言えるんですかね?

藤井 企業としては生き残っていると言えます。ただそれと、個人のこととは分けて考えなくてはならない。

安田 そうですよね。自分がいなくなった後に会社だけが残っても、あまり意味ないですもんね。

リクナビネクスト編集長藤井薫氏藤井 企業の寿命は短くなり、反対に個人は「人生100年時代」ともいわれています。

安田 完全に反比例してますね。

藤井 はい。仮に20歳から80歳まで働くとして60年。その職業寿命60年を、平均企業寿命20年で割ると「3回は新しい企業を渡り歩く」ことが当たり前の時代になります。

安田 その傾向は今後も変わりませんか?

藤井 サービス経済化、デジタル化、グローバル化は、既存事業のコモディティー化を加速させる方向に圧力をかけます。その意味では、企業の寿命については、今後もっと厳しくなっていくでしょうね。

安田 潰れてこそいませんが、日産とか、シャープとか、生まれ変わったに等しい状態ですよね。

藤井 一方でユーチューバーのように、大企業に属さなくても「個人がパワーを持てる」時代になっている。「個人が法人化する」という流れです。

安田 企業ではなく、個人が活躍する時代になると?

藤井 いえ、どっちもどっちで、短命化の波に飲まれることになります。エンドユーザーの共感を得られないと、明日にはすぐに飽きられてしまいますから。

安田 確かに。飽きられるのも早くなってますね。

藤井 10年後のフェイスブックが、いまのカタチをしているのかさえ見えません。変化と淘汰の波が昔以上に激しくなっています。

安田 企業でも個人でもそこは同じだと?

藤井 大企業もベンチャーも個人もみんな同じ。先が読めない中で、短命化からどうやってサステナブルになるか。それが共通する命題なのです。(続く


藤井薫(ふじいかおる)プロフィール
1988年リクルート入社。以来、人材事業に従事。TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長を歴任。2008年からリクルート経営コンピタンス研究所、14年からリクルートワークス研究所兼務。現在、「はたらくエバンジェリスト」として、変わる労働市場、変わる個人と企業の関係、変わる個人のキャリアについて、多様なテーマ(AI全盛時代の採用戦略、多中心時代のHRM、アントレプレナー・パラレルキャリアの生き方など)を新聞・雑誌、講演で発信中。近著『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)。安田氏(左)と藤井氏安田佳生(やすだよしお)プロフィール
1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブ設立。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、境目研究家として活動を続けながら、2014年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。

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